本当に向精神薬で自殺者が激増したのか?
●減っている自殺者と増えている精神疾患患者
1990年代末、日本は急激に自殺が増えました、長く年間3万人以上の自殺者が出てしまっており、先進国でもトップクラスの自殺大国というありがたくない異名が付けられたくらいです。
その原因の一つとされたのが、1990年末に売り出されたSSRIと言われる当時新しい抗うつ薬でした。
このグラフを見ると、いかにも・・・ という感じがしますよね。
しかし『全日本民医連』の記事にはこうも書かれています。
警鐘事例であげた「自殺念慮」は、プラセボと有意差がないことを理由に添付文書に副作用として記載されていません(「注意」事項として記載)。
(2016年5月26日【新連載】10.抗うつ薬の注意すべき副作用)
プラセボとは別名プラシーボともいわれる偽薬のことで、薬を作るとき、本当に効くのかどうかを、まったく薬効がない偽物の薬と効果を比べるのです。
その一方、同じ記事の中に
パロキセチンの副作用はこれまでも多く報告されています。主なものは精神神経系、消化器系の副作用です。また自殺念虜、自殺企図のリスクが増加するという報告もあり、あらためて注意を喚起します。自殺念虜、自殺企図のリスクは24歳以下の若年者が高く、特に注意が必要です。
ともあります。はたしてどちらなのか、よくわからないですね。ただアクチベーション症候群といって、不安になったり、怒りっぽくなたり、あるいは躁状態になったりすることは、SSRIの飲み始めに起こることがあるそうです。
うつ病は脳内のセロトニンという物質が少なくなって起こる病気と言われており、SSRIはセロトニンを増やす効果があるそうなのですが、飲み始めの頃、脳内のセロトニンが不安定に上がってしまい、気分も上がったり不安定になることがあるというのです。
●自殺が減っているのに精神疾患の患者は増えているとは?
ちょっとまって。実はここ数年、日本の自殺率、自殺人口は減っているのも事実。
もし自殺とSSRIや向精神薬とが、相関関係あるとすれば、自殺が減るのと同じように精神疾患の患者が減っているはず・・・
ふむ? どうやら精神疾患の患者は増え続けています。
ほとんどの患者は向精神薬を処方されるでしょうから、どうやら「SSRIや向精神薬の処方が増えると自殺が増える」と、短絡的には言えません。
●抗うつ薬の処方が増えると自殺が減るという報告も
『MSDマニュアル 家庭版』によると
抗うつ薬と自殺のリスク
自殺企図のリスクは、抗うつ薬治療を開始する前の月に最大となり、抗うつ薬の使用を開始してからは、それまでと比べて自殺による死亡リスクが低くなります。ただし、抗うつ薬を使用すると、小児、青年、若年者では自殺念慮や自殺行動の頻度が若干高まります(自殺既遂の頻度は高まりません)。このため、小児や青年の親に注意を促す必要があり、小児や青年については不安、興奮、不穏(落ち着かなくなる)、易怒性、怒りの増大、または軽躁病(患者に活力が満ち、元気になるが、しばしばすぐに苛立ち、気が散り、興奮する状態)への移行などの副作用が生じていないか、特に薬剤の服用開始後の数週間は注意深く監視する必要があります。抗うつ薬を服用すると自殺のリスクが高まる可能性があるという公衆衛生上の警告が出されたことから、小児や若年者に対して抗うつ薬が処方される頻度が約30%少なくなりました。しかし、これと同じ時期に、若年者の自殺率は一時的に14%増加しました。したがって、うつ病の薬物療法を控えさせるこの警告は、結果的に自殺による死亡者数の減少ではなく、逆に増加につながってしまった可能性があります。
(引用:『抗うつ薬と自殺のリスク』より)
こちらには
「抗うつ薬の使用を開始してからは、それまでと比べて自殺による死亡リスクが低くなります。」
「抗うつ薬を服用すると自殺のリスクが高まる可能性があるという公衆衛生上の警告が出されたことから、小児や若年者に対して抗うつ薬が処方される頻度が約30%少なくなりました。しかし、これと同じ時期に、若年者の自殺率は一時的に14%増加しました。」
と、あり、むしろ抗うつ薬が自殺予防に有効であると書いています。
また、『日本うつ病学会』の野村 総一郎理事長によると
「米国食品医薬品局(FDA)は、この現象はすべての抗うつ薬に共通する可能性が高いとして、抗うつ薬を未成年うつ病患者に投与する際にはリスクとベネフィットを評価することを警告(Black Box Warning)している。その後の解析データに基づき、2007 年 5 月に 18〜24 歳の若年成人において、すべての抗うつ薬が自殺のリスクを増加させることを追加した。」
(引用:『抗うつ薬で自殺が増加するか? 』)
と、米国の情報を書いたあと
「一方、抗うつ薬治療によりうつ病患者の自殺死亡・企図が増えるとする見解には否定的な研究報告も少なくない。経年的にみると、新規抗うつ薬の処方数と自殺死亡率との間には負の相関がみられるとする報告が欧州(Isaacson, 2000)および米国(Grunebaum ら, 2004)で行われている。すなわち、抗うつ薬の処方数の増加に伴い、自殺者数が減少しているのである。あるいは自殺企図は、抗うつ薬療法の導入直前に最も多く、導入後は徐々に減少するという 65,103 名のうつ病患者を対象とした報告もある(Simon ら, 2006)。」
と、抗うつ薬を飲むことで自殺が減少しているデータがあることも報告しています。
ここも「抗うつ薬療法の導入直前に最も多く、導入後は徐々に減少するという 65,103 名のうつ病患者を対象とした報告もある」というのは、前述したアクチベーション症候群のせいであると考えられます。
●90年代末の自殺激増は抗うつ薬とは関係ない?
さて、ここでもう一度上のグラフを見てみましょう。
97年から98年の一年で自殺が激増していることがわかります。
ではSSRIをはじめとする向精神薬が売れ出すのはいつでしょう?
98年から99年にやや売れ出し、その後はどんどんと市場規模を伸ばしています。
日本で最初にSSRIが売り出されたのは1999年5月。
『うつは心の風邪』キャンペーンで製薬会社が大々的にSSRIを売り出したのが、1999年。
それなのに、97年から98年の一年で自殺が激増している。
「SSRIや向精神薬の処方が増えると自殺が増える」としたら、なぜSSRIの発売前、向精神薬の売り上げが伸びる前に、自殺が急増していたのかという謎が残ります。
SSRIや向精神薬が自殺とまったく関係ないとはいいませんが、どうも釈然としません。
●自殺激増の原因は97年に起こったあることではないか?
自殺と景気は正比例するといいます。
日本では91年にバブル経済が崩壊し、そのあと現在に至るまで回復しておりません。
バブルの頃は景気が良かったせいか、自殺率は大変低くなっています。
しかしバブルが崩壊し、日本が立ち直れていないいない時期に、日本政府は消費増税を行います。
それから急激にうつ病はじめ精神疾患を病む人が増え、さらに自殺が激増します。
つまり不況→消費増税→うつ病が増える→自殺急増となったのかも知れません。
さて、結論としては、向精神薬の売り上げが増えると自殺が増えるというより、景気が悪くなり、社会に余裕がなくなり、それで精神を病む人が増え自殺が増えたということなのでしょう。
実は不登校やひきこもりも、90年代末から急速に増えたのです。
1日も早く景気が回復し、余裕のある暮らしになってほしいものです。
FHN放送局
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巨椋修(おぐらおさむ)は陽明門護身拳法という護身術&総合格闘技の師範をやっています。
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