1998年になぜ自殺が激増し現在は減り続けているのか?
●1998年以前の日本に何が起こっていたのか?
自殺者数の推移をみていくと、このグラフのようにバブル景気の頃は下がり、バブル崩壊後に徐々に増えている。
そして97年~98年に激増しているのだ。
いったいこの時期に何があったのか?
4月に消費税が3%から5%に引き上げられている。
その後日産生命保険、山一証券、三洋証券などの大企業が経営破綻している。当然それら企業と取引していた中小企業も倒産する。事実、96年から98年にかけて倒産件数は跳ね上がっている。
1998年は、バブル崩壊後、なんとか耐えてきた日本経済が耐えきれなくなった年でもあるのだ。「失われた20年は98年にはじまる」という識者がいるくらいであった。
また自殺と失業率は比例するというが、どうだろう?
やはり、バブル崩壊後に上がりだし97~98年に跳ね上がっている。しかし2002年あたりから下がり、リーマンショックがあった08年後に激増している。
つまり、自殺と経済は密接なつながりがある。事実、自殺者の過半数は無職者なのだ。失業者が増えると自殺が増えるのだ。
●なぜ2010年から自殺が減りだしたのか?
自殺は2010年あたりから減り出すのだが、2010年から落ち込んでいたDTP(国内総生産)が持ち直してくる。
また2010年に、政府が自殺防止キャンペーンをはじめたことも大きいだろう。テレビ等で『お父さん眠れてる?』というCMを覚えている人も多いだろう。
これは自殺する人の多くが、ストレス等からうつ病などの精神疾患にかかってしまうことから来ている。不眠症は、うつ病の入り口なのだ。
自殺防止キャンペーンの実質的な内容は、うつ病対策でもあったのだ。
そのせいもあるのか、このグラフを見てもわかるように、精神科を受診する人は年々増えている。そして自殺する人は年々減っている。
しかし中には「精神科の薬を飲むと自殺率が高くなる」という人もいる。ちょっとした矛盾だ。
●抗うつ薬は自殺率を高めるのか?
自殺者のほとんどが何らかの精神疾患にかかっているというのは有名な話し。ゆえに精神科の薬に反対する人は「精神科の薬は自殺を促進する」という。その薬はSSRIといって、現在もっとも使われている抗うつ薬だ。
自殺が激増した96~98年だが日本では、1999年5月から発売開始されている。と、いうことは自殺の激増と、抗うつ薬はあまり関係がないということになる。
自殺者が増えたのは抗うつ薬を飲むようになったからではなく、自殺を考えるほど苦しんだ人が、精神科に通うようになったというのが合理的な考え方だろう。
しかし抗うつ薬にまったく自殺のリスクがないかというと、そうではないらしい。
例えば、うつ病は自殺率が高い病気で、最近の調査では、うつ病全体で生涯死亡率
2%、かつてうつ病での入院歴のある人では 4%、自殺念慮・企図を伴うエピソードでの入院歴があると、さらに8%に増加するという。
(※引用『抗うつ薬で自殺が増加するか?』日本うつ病学会 理事長 野村 総一郎)
上記の論文によると、米国食品医薬品局(FDA)は、2007 年 5 月に 18~24 歳の若年成人において、すべての抗うつ薬が自殺のリスクを増加させることを追加。
一方日本では、厚生労働省での審議の結果、SSRI と SNRI に関しては、18才未満のうつ病患者に対して同様の注意を払うことが添付文書に記載されたという。
しかしまったく逆の報告もあり
抗うつ薬の処方数の増加に伴い、自殺者数が減少しているのである。あるいは自殺企図は、抗うつ薬療法の導入直前に最も多く、導入後は徐々に減少するという 65,103 名のうつ病患者を対象とした報告もある(Simon ら, 2006)。
と、抗うつ薬を導入した地域は自殺率が減少したという。
うつ病と診断された退役軍人 226,866 名を対象とした解析では、抗うつ薬投与群での自殺企図率は、抗うつ薬非投与群よりも低かった(Gibbons ら, 2007)。
治療開始前の自殺企図率は治療開始後よりも高かった。抗うつ薬毎に比較すると、SSRI で三環系抗うつ薬よりも有意に低かった。
この結果は、成人のうつ病患者を対象としたものであるが、SSRI など
の抗うつ薬がうつ病患者の自殺を増やすという仮説を支持していはいない。
と、やはり抗うつ薬を飲むことによって、自殺しようという気持ちが減ることが述べられている。
日本で近年、精神科に通う人が増えているのに、自殺が減っているのは、これまで精神科への偏見から、苦しくても病院に行かなかったのが、垣根が低くなって病院にいくようになったからだと考えていい。
●なぜうつ病治療中に自殺をするのか?
ではなぜうつ病治療中の人が自殺するのか? よく言われるのが「うつは治りかけが危ない」という。
つまり、うつ病というのは自殺したくなる病気なのだが、それ以上に行動するのもつらい病気なのだ。
皮肉なことに、治療が進んで少しずつ元気を取り戻してきたとき、自殺する元気も取り戻してしまうという。
これを考えてもうつ病は、決して簡単な病気ではない。
●効果的な自殺予防対策は?
さて、そろそろまとめよう。どうやらもっとも効果的な自殺予防対策は、景気対策であるようだ。そしてストレスの少ない社会を作ることと言えるだろう。