精神科薬物療法認定薬剤師はらけいこ先生に聞く心のお薬


皆様から、心のお薬について質問を募集し、精神科薬物療法認定薬剤師の、はらけいこ先生にお答えいただきました。



音声が聞けない人のために、はらけいこ先生と巨椋修(おぐらおさむ)のトーク内容は、文字に起こしておりますのでお読みいただければと思います。


【FHN放送局_ラジオ版】_薬剤師はらけいこさんに質問_.mp3




●Sさんからの質問
実は私も八年ほど前に「うつ」だと診断されて、パキシルなどの薬を服用しております。


先日病院に行った際、昼間分の薬を持ってくるのを忘れてしまいました。


その結果、待ち時間にどうにも落ち着かない気分にとらわれてしまったのですが、それは薬を飲まなかったという意識がそう思わせたのか、それともやはり薬を飲まなかったせいなのか、いろいろと考えてしまいました。


どう思われるでしょうか。


○はらけいこ先生のお答え
はら このお話しだけだと、よくわからないところもあるんですけど、パキシル“などの薬”ということでしたね?
パキシルというのは抗うつ薬なんですけど、飲んだそのときに不安が抑えられるというタイプのお薬じゃないので、パキシルの影響はあまり考えられないんじゃないかなと思うんです。
ちなみに薬って飲んでどれくらいで効くと思いますか?

巨椋 すぐ効くと思いますけど? 頭痛のとき薬を飲んですぐ治るとか、下痢のとき飲んですぐにストッピ的な。

はら みんなそんな薬だといいんですけどね。(笑)

巨椋 覚せい剤的に、うつの人が飲んだら急に晴れやかな気持ちになるみたいな。

はら そういう薬があったら怖いですね。(笑)薬って錠剤でもカプセルでも早くて30分くらいかかるんですよ。
なんでかっていうと胃の中で溶けて小腸で吸収されて、それから血液に乗っかって、それから脳に行って、それではじめて効くんです。
その後また脳から離れて血液でグルグル回ってちょっとずつ腎臓からおしっこになって出たり肝臓から代謝されて便とかで出て行くっていうのが薬の運命なんです。
でも、体の中に留まっている時間は薬によってずいぶんと違うんです。
このパキシルの場合、1日1回飲めばいい薬なんです。1日1回飲めばいい薬って、大体24時間体の中に安定して留まっている薬なので、飲む時間が多少ズレたところで、体調に急な変化は及ぼさないと考えられます。
不安とかに効く薬というのは、飲み忘れると、落ち着かなくなることも考えられなくはないんですけど……

巨椋 パキシルっていうのは違うんですか?

はら パキシル抗うつ薬です。

巨椋 抗うつ薬抗不安薬っていうのは違うんですか?

はら 抗うつ薬というのは飲み続けることによって、脳内物質が安定してきて、うつが改善されてくるお薬で、飲み始めてから効果が出るまで2〜3週間かかります。

巨椋 そんなにかかるんだ。覚せい剤的にパーッって効くもんじゃないんですね。

はら はい、2〜3週間かかりますので、うつ病の治療のとき抗うつ薬と一緒に出されるのが抗不安薬です。

巨椋 それは即効性があるの?

はら あります。でも抗不安薬にも種類があって、種類によって効いている長さに違いがあるんです。一番短いのだと5〜6時間しか効かないようなものもありますから、そういう薬の場合、定時に飲まないと不安になってしまったためかも知れないと思いました。

巨椋 すると、質問者のSさんの場合、パキシルが切れたからというよりも、もしかしたら抗不安薬が切れたから【かも】しれない。あるいは何か意識の問題であるである可能性が高いということですかね?

はら あくまでもそう【かも】しれないということしかいえませんけど。




●Oさんからの質問
一週間まえにこのブログを見つけて大変面白く読ませてもらっています。
僕は32歳で大学卒業後10年近くニートですが、精神科に通ったことがありません。


去年に就職活動をちょこっとチャレンジしてみましたが、意欲が出なくなってストップしています。今年は精神科につながろうかな〜とぼんやり考えています。


ただ、精神科と言うとちょっと抵抗があります。本文にも書かれているように「薬漬けにされる」というイメージがあります。

話をロクに聞いてもらえないで薬を出されて治らない・・・というのは偏見でしょうか。


不安が強すぎて就職活動を踏みとどまる場合は「先ずは不安の治療から」と言われたりもしますが、なんだかしっくりきません。


文章だけでは伝わらないですが、僕は普通の人間関係は安定していますし、薬なんて要らないような気がするんです。


医師じゃない個人が判断できることではないかもしれませんけどね。

薬の飲まない精神科医療ってあるのでしょうか?

○はらけいこ先生のお答え

はら 病院に行ったほうがいいかと迷っている方って多いと思うんですけど、そのひとつの目安として「困っているかどうか」「生活に支障があるかないか」と基準にしてみるといいかもしれませんね。
例えば、不安とか意欲が出ないということがあるがために、この方は社会生活がちゃんと送れていない。支障があると考えられますよね。
そしたら、病院にいって専門家の意見を聞くというのは、一つのいい方法じゃないかなと思います。
それと、精神科にいって「薬漬けにされるんじゃないか」と皆さん心配されますよね。いろいろな報道にも出てますし。
医療の基本は「インフォームド・コンセント」といって、医療者が示した提案に患者さんが同意をして、治療が行われていくものなので、医者が示した治療でも自分が嫌なのであれば、受け入れられないというべきことです。
そういわれたからといって、医療者が診ませんということは行われてはいけないことなのです。
でもお医者さんにかかって「嫌です」とは言いにくいでしょうね。

巨椋 言いにくいですよ。医者は権威とか権力を持っていますから、患者としてもハイハイといったほうがいいのかなって思っちゃいますもんね。

はら 精神科の怖さを助長していることに、初めて行ったときにどういう感じで診察が行われるかよくわからないということもあると思うんです。
だいたい初めて精神科に行った場合というのは「予診」というのがあるんですよ。

巨椋 「予診」? それはどういうことをするんですか?

はら 病院によって多少違いはあるんですけど、最初に看護師さんや精神福祉士さんとか、心理士さんとかが、「どうしてこの病院に来たか?」「何に困ってこの病院に来たか?」「どういうことを望んでいるか?」で、あと診察をしていく上で必要と思われる情報、例えば「家族の方に精神科の病気の方はいるか」とか「いつからこの症状があるか」とか「どういうキッカケで症状が出たか」とかを聞いていくんですね。

巨椋 ぼくの友人で、風邪をひいていった病院が心療内科もやっているところで、不安はないかといったやたらたくさんのことをチェックシートのようなものに書き込む病院があってビックリしたという話しを聞いたことがあります。

はら はい、まずそういった表に書き込んでもらって、さらに看護士さんや福祉士さんなんかがさらにくわしく聞いて、その後にお医者さんとというのが多いんです。全部がそうだとはいえないんですけどね。
そのときにどんな治療を希望しているかとか言える機会があると思うんですよ。

巨椋 そのときに薬に対する不安があるとか言えばいいんですね。

はら はい、また精神療法を希望していますと言ってもいいと思いますし、まあ、あまり恐れずに病院に行ってみてはと思います。
また、不安に対しては近年「認知行動療法」が有用だといわれておりまして、そういった治療方法をやってくれる病院もないことはないんです。

巨椋 まだ少ないんじゃないですか?

はら 少ないんですよね。

巨椋 「認知行動療法」ってお医者さんの得点にならないから、やっているところが少ないっていう話しもありますね。

はら いまはまだ保険上はお医者さんしかやることが認められなくて、保険点数外であればやっているところもかなりあるんですけど。

巨椋 保険点数外って?

はら 自由診療

巨椋 高くつくわけだ。ちなみにその「認知行動療法」なるものは、どんなことをするのでしょう?

はら わたしは薬剤師だからくわしくは言えないんですけど、大まかにいうと自分の考え方の癖を理解して、考え方の癖からくる悪循環を断ち切ろうという感じです。

巨椋 うつにしても、神経症にしても、ナントカ障害っていう人にしても、認知のゆがみっていうんですか、物事をちょっと違ってとらえてしまう人っているじゃないですか。
何でも悪くとってしまうみたいな。

はら そうそう。

巨椋 何でも悪くとってしまう思考の癖を持っている人は、どうしても不安になりやすいですもんね、怖いでしょうしね。

はら 後もうひとつ、この方は就職を希望されているけども、うまく就職活動ができないということなんですが、就職を希望する方のプログラムを持っている精神科の病院やクリニックも結構あったりします。

巨椋 そういうのって、ネットとかで調べられるんですか?

はら 結構調べられますよ。そういうところは就職を希望する人のためのディケアとかあるんです。リワークっていうんですけど、ネットで検索してみるのも一つの方法だと思います。
後、薬漬けになるという不安があるということですが、実際にそういうこともあります。

巨椋 確かに1日30錠40錠飲んでいる人の話とか聞きますね。

はら わたしも聞きます。現にそういう患者さんが入院してらして、薬を減らしたら良くなっていくというケースを見ているので、心が痛むんです。そうなる要因はいろいろあって、その要因の一つに患者さんが回復を急いでしまうというところがあったりします。

巨椋 そりぁ急ぎますよ。どんな病気でも1日も早く断ち切りたいというものですもんね。

はら そうですよね。でもハッキリ言って簡単には治りません。時間がかかります。

巨椋 軽いうつでも早くて半年とかいいますもんね。軽いもので半年ってことは、数年間かかるものと言えるかも知れませんね。

はら そういう場合も多々ありますね。この方がうつってわけではないんですが、例えばうつの薬だと効きはじめるまで2〜3週間とか、ほんとに時間がかかるので、あまり焦らず薬の効果とかも2〜3日飲んだだけで判断せずじっくり治してもらいたいなと思います。

巨椋 薬って人によって合う合わないっていうのもあるんでしょ。その合う合わないがわかるまでどれくらいかかるものなんですか?

はら 薬の種類によって違いますね。

巨椋 そうか、するとあまり短絡的にならず、こまめにお医者さんに聞いた方がいいんですね。

はら そうですね。気になるなら、お医者さんに「この薬の効果の判定はどれくらいかかりますか?」とか「どれくらいで効きますか?」とか聞いてみるのもいい方法ですね。

巨椋 逆にいうと、これはぼくが本で読んだ知識なんですけど、うつ病に関しては再発率がとても高いと。自分で治ったと思って薬をやめたら再発なんてことも。

はら うつ病はすごく再発しやすいですね。良くなった人は、良くなったときの処方を半年くらい続けたほうがいいと言われています。

巨椋 え!? そんなに!? 良くなってから半年も?

はら はい、良くなったときの量を半年続けて、それから徐々に減薬していく必要があります。

巨椋 わ〜、長いねえ、そんなにですか! 知らなかった。

はら そうなんです。ですからじっくりじっくり治療してください。



●Aさんからの質問
リスパダール統合失調症のお薬)を多めに飲んでた時期、射精障害になりました。


彼女はいなかったので1人エッチばっかでしたが、イク感覚はあるんですけど射精はせずに、全然気持ち良くなかったのです。


射精はしなくても疲れはするので、虚しさ100%でした。でも性欲はあって、勃起はちゃんとしてました。
薬飲み忘れた日は普通に射精しました。


病院でもらった薬の説明書には、射精障害のことは書いてなかったですが、ネットで調べると、副作用としては考えられるようです。


リスパダールで射精障害になる人って割合少ないんでしょうか?


他の精神科薬でも射精障害はありますか?


診察の時、女性の看護師さんが常に立ち会ってたので、主治医にも相談できず、ずっと1人で悩んでました。
主治医に初めて伝えられたのは、薬が減って射精障害治ってからでした(笑)


薬剤師さんの範疇ではないでしょうけども、診察の時は、性的な相談がしやすい環境も作って欲しいものですね。

巨椋 射精障害、つまり精液が出ないってことなんですけど、そういう副作用ってあるんですか?

はら リスパダール統合失調症のお薬なんですけど、うつ病の薬でも射精障害を起こすものも結構あります。
他に勃起障害とかもひっくるめて性機能障害といわれる副作用ですが、最近まであまり注目されてなかったんです。
でも近年になって、お薬をやめてしまう大きな原因の一つではないかと注目されてきた副作用です。
ただ、この薬で性機能障害がこう起こるとか、よくわかっていない部分が結構あるんですよ。
リスパダールに関していうと、プロラクチンというホルモンがあるんですが、そういうホルモンが体の中に増えてしまって、それで射精障害が起こってしまうのではないかと言われています。この副作用はリスパダールは結構起こりやすいですね。
他の薬でも起こることがあります。
後、人によって同じ薬でも起こる人がいたり起こらない人がいたりして、個人差が結構あるようなんですけど、女性では生理が止まってしまうとか、後、女性だけではなく男性の胸からお乳が出てしまう副作用があったりします。
でも、薬の減量をすると良くなったりすることもあるんですけど、中には良くならないこともあって、そういう場合は、より副作用が少ない薬に変更してもらった方がいいですね。

巨椋 そうですか。こういった性の話しってプライバシーもあって言うのは恥ずかしいですね。

はら わたしも薬剤師として聞くんですけど、聞くほうも恥ずかしいんですね。だから私の工夫は、アンケートみたいに「こういうことはありますか」とか紙に書いてチェックしてもらったりしています。

巨椋 なるほど、すると患者さんもあらかじめ紙にメモして渡してみるというものいい方法ですね。診察のときに言い忘れたりすることも防げますしね。

はら グッドアイデアですね。結構メモをお医者さんに渡して相談している人がいますよ。

巨椋 ありがとうございました。またこれから、質問とかいろいろ教えてください。

はら ありがとうございました。


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今回は以上です。

もし皆さんの中で、心のお薬や精神科医療、心の病気について質問がある方は、コメント欄か、わたし巨椋修(おぐらおさむ)へメールをいただければと思います。


FHN放送局
巨椋修(おぐらおさむ)