日本の自殺報道はWHO勧告違反だらけ
大手広告代理店の女子新入社員が、過労自殺をしたことが新聞テレビをはじめ大々的に報道されている。
これは明らかにWHO(世界保健機構)が勧告する「自殺を予防する自殺事例報道のあり方」に違反する報道です。
しかし、メディアはもちろん、ネットでもこれを批判する人はあまりいないようですね。むしろネット民は「電通はブラック企業だ」と、企業叩きに熱中しているようです。
中には「たかだか残業100時間程度で自殺するのは甘い!」と亡くなった方を卑下する人もいます。
ほとんどの人は、WHOが勧告する「自殺を予防する自殺事例報道のあり方」をご存じないと思いますので、ここに提示しておきます。メディア関係者の方々は最低限心にとめておいてほしいもの。
すべきではないこと
・写真や遺書を公表しない
・自殺の詳しい内容や、方法を報道しない
・自殺の理由を単純化して報道しない
・自殺の美化やセンセーショナルな報道を避ける
・自殺の名所などの表現を避ける
・宗教的、文化的な固定観念で報道しない
・断罪しない
・精神病に汚名を着せない
すべきではないこと
・健康に関する事実を提供する際の責任者は、注意深く行動する
・自殺か自殺未遂かということだけを報道する
・関連する情報だけを、同じページで提供する
・自殺に代わる方法を示す
・ヘルプラインや各地域の支援機関を紹介する
・危険な兆候や、警告サインを知らせる
・セルフ・エスチームの向上 (積極的な自己評価は精神的苦悩から成少年を保護し、生活上の困難とストレスに対処することができる)
・学校でのいじめと校内暴力の防止 (不寛容から解放された安全な環境の構築)
今回の自殺報道は、大手広告代理店の社員が労働基準監督署に過労死と認められたことと、亡くなった方が若くて美しい女性であったことで、報道が事件性を感じこの報道は売れる! と考えたからこそ、WHOの自殺報道勧告をまったく無視しての報道を行ったのでしょう。
さらに「こういったことはあってはならない!」という義憤、正義の報道であるという思いも記者さんにはあったと思います。
しかしもう少し考えてほしいのです。なぜWHOがわざわざこのような「自殺を予防する自殺事例報道のあり方」を勧告しているのかを。
それは、自殺についての大量の報道が「模倣自殺」を引き起こしてしまうからです。
古くは江戸時代に流行った浄瑠璃や歌舞伎の「心中もの」が流行ったとき、それをマネして心中(相愛の男女が合意の上で一緒に死ぬこと)をする人が急激に増えたため、幕府は心中ものの上演を禁止しなければならなくなりました。
1986年にアイドル歌手の岡田有希子が飛び降り自殺すると、同じように飛降り自殺する若者が急増。、この影響はほぼ1年続き、1986年はその前後の年に比べて、青少年の自殺が3割増加したといいます。
他にも自殺報道の後に、自殺が増えることが明らかになっているのです。
また、自殺報道は苦しいとき、つらいときに最後の手段として、死を選ぶという方法があることを、人々に刷り込むという効果もあるのです。
いかに義憤にかられようが、いかに正義の報道であろうが、大衆の知る権利があろうが、自殺者を明らかに増加させる自殺報道は慎重のうえにさらに慎重であるべきでしょう。
最後に今回自殺した母親がこのような言葉を残しているのを紹介します。
「命より大切な仕事はありません」
その通りです。命より大切な仕事なんかありません。
もし死にたくなったら「自殺予防総合対策センター」に迷わず相談を。