富山奇行後編 王様の耳はロバの耳
この物語は、2017年2月末に私が監督した映画『不登校の真実』の富山ロケの様子を記したドキュメントである。このアホウな男たちは実在する!
●富山奇行10 小杉町 町長と会食
小杉町に、向かう車に中でオレは思った。
オレたちが富山について
いまでちょうど24時間しかたっていないのだ。あまりにも濃い24時間である。
小杉町に向かう車の中には、オレとアベ、テレビ局の撮影クルー以外に、ミヤカワ氏とS高校のK先生も同道してくださっている。
昨日から、ずっとお世話になりっぱなしで、申し訳ない気もするのだが、もしかしたら、もしかしたらK先生のホンネは、我々をダシにして、酒を飲みたかっただけという気もする。(笑)
やがて、オレたちを乗せた車は、小杉町のある日本料理屋に到着する。
しばらくすると町長も到着。町長と一緒に、県PTAの偉い人であるTさんもやってきた。
まずごあいさつをすませると、町長にインタビューの許可をいただく。
町長とTさんに対して、オレがいろいろと、不登校に対しての質問をぶつけて、答えをいただく。
それを、アベが撮影し、さらにアベが撮影しているところを、テレビ局のカメラマンが撮影をするという構図である。
小杉町では、子どもの人権・教育に、いろいろと取り組んでおり、その方法などを尋ねていく。
話しているうちに、県PTAのTさんが、昔サンボというロシアの格闘技の名選手であったことがわかった。
そういえば、昨日一緒に飲んだカメラマンの方は、東京で空手を修行していたというし、翌日には元プロボクサーという人を会うことになる。
どこまでいっても格闘技から、縁が切れないオレであった。
町長とTさんのインタビューは、着々と進み、やがて酒を飲みながらのインタビューとなっていく。
大いに盛り上がりながらも、インタビューが終了。
町長、Tさん、ありがとうございました。そういって解散かと思いきや、もう一軒行こうと町長に誘われる。
もはや酒に後ろを見せるわけにはいかない。
我々は、スナックに足を運ぶ。
そばらくすると、そこへ精神科医の明橋大二先生という方がやってくる。
この明橋先生というのは、今回の映画の原作である『不登校の真実』で、引きこもりや不登校の少年たちについて、医者の立場から、いろいろとインタビューをさせていただいた先生である。
先生自身も、『なぜ生きる』や『輝ける子』という本を出版しており、それぞれ大変なベストセラーになっているような方なのだ。
それらのメンツで、またしても大盛り上がりに盛り上がり、富山奇行二日目の夜は深けていったのである。
そして気が付けば深夜一時を回っているではないか!!
我々はタクシーを呼んで、富山市内に戻ると、そこでもさらに数時間の飲み会が続くのである。
つづく
●富山奇11 三日目
富山入り三日目の朝、オレは、例によって昨夜の酒を残したまま目が覚めた。
昨夜タクシーで、S高校に帰ってから、軽く飲んだ後に寝たのである。
軽くシャワーを浴びてから、職員室に行くと、女性教師のM先生がいる。
オレとアベは、M先生に昨日アベが電気屋を探して帰って来なくなったことを話すと、親切にもM先生は車で、電気屋さんまで案内してくれた。
その日は、土曜日で学校はお休み。授業はない。
我々はM先生にご好意に甘えて、国道沿いの量販店の電気屋にいき、イヤホンを購入。
朝食を済ますと、オレとアベは富山市街の撮影に取り掛かる。
たかが街の風景を撮影を撮るだけでも、いいアングルから撮るためには、意外なほど時間が必要なのだ。
二人で熱中しながらいいアングルを探していると、その非常識ぶりから富山大学【非常識】講師であり(本当は非常勤講師)であり、この映画「不登校の真実」のプロデューサーでもあるミヤカワ氏から携帯に電話が掛かってきた。
「オグラさん、何やってんスか?」
「何って、駅前を撮ってるんだよ。決まってるじゃん」
「いま何時かわかります?」
「12時50分」
「1時から県庁にいって、教育委員会の人と会うの覚えてます?」
「あ。」
「忘れてたんですか?」
「忘れてた」
『もう……、ダメだなぁ……』
く、くく……、非常識講師から、ダメ出しされる屈辱……。
確かに、忘れてた。
ええ忘れてましたさ。
忘れていたとも。
くっそーっ、わずか3日とはいえオレにしてみれば、スーパーハードなスケジュール。
そりぁあ予定のひとつくらい忘れることだってあります。
そう自分に言い訳するオレに非常識講師ミヤカワの追い討ちが襲う。
『もう、ばかなんだから……』
く……、くく……、非常識講師から、ばか呼ばわりされるくやしさ。
何も言い返せないオレ。
「もう、仕方ないから、これから迎えに行ってあげますよ」
非常識講師にあげます呼ばわりされ、屈辱にまみれながら、オレとアベは、ミヤカワ氏の案内で県庁に向かう。
土曜日で人の少ない県庁に入り、教育委員会のエライ人に面談し、この映画の協力をお願いする。
意外なほど好意的である。
考えてみれば、東京でも文部科学省に行ったとき、大変好意的な待遇をしていただいたのだ。
そのときオレを文部科学省に連れていったのも、ミヤカワ氏であった。思えば変なヤツである。
非常識だがな! フン!!
県庁から、上映についてのアドバイスや、いろいろな協力の相談に乗っていただいた後、S高校に戻る。
とにかく時間を無駄にしたくない。
S高校で、さきほど我々を電気屋に連れていってくれたM先生にインタビューをする。
そうこうしていると、中日新聞の記者さんが取材にこられた。
オレが取材をされているシーンをお願いして撮影させていただき、逆取材をする。
取材が終わるころには、もう夕方である。
オレとアベは、小腹を満たすために、ラーメン屋へと向かったのであった。
オレは麺類大好き人間なのだ。
旅行をした場合、必ずその土地のラーメンや、そば、うどんなどをいただくようにしている。
オレとアベは、地元の人から聞いたラーメン店に行ったのである。
するとそこでとんでもないことが……
つづく
●富山奇行12 富山のラーメン
富山の人に聞くと、富山県人はラーメン好きが多いそうだ。
そして、富山のラーメンはウマイとおっしゃる。
実のところ、今回の富山奇行で行ったラーメン屋さんは、わずか2軒であり、この2軒で富山のラーメンを語ることはできない。
しかし後で調べてみると、その2軒のラーメン屋は、富山県のラーメン屋ベスト10に入っていることから、ある程度の傾向を知る手がかりにはなるだろう。
さて、これからが昨日の続きである。
オレとアベは、小腹を満たすべく、富山住民が推す人気店に行ったのである。
店の前からは、ラーメン屋独特の美味そうな香りがしている。
暖簾をくぐり、ラーメン屋に入る。
オレの場合、初めてのラーメン屋さんで頼むのは、メニューの最初に書いてあるラーメンを頼むことにしている。
一番最初に書いてあるということは、その店にあるすべてのラーメンの中でも、もっとも基本的かつ中心の味であるラーメンであろうと推測するからだ。
ラーメンが出てくる。
黒い・・・、ひたすら黒い。
まるで生醤油に麺が使っているようである。
しかし見てくれでラーメンを判断してはイケナイのだ。
コッテリに見えてアッサリであったり、アッサリに見えて濃厚であったりして、見た目だけで判断できないラーメンも存在するのである。
スープをすする。
う……
ある富山のラーメンについて書いた文章によれば、そのラーメン屋は“濃厚”タイプであるらしい……
確かに“濃厚”では、ある。
しかしその味は、濃厚という表現よりも、もっとふさわしい表現方法がある。
その表現とは、グルメ本では、まずお目にかかれない表現である。
しかし家庭料理では、しばしば使用される表現である。
ズバリ言おう……
しょっぱい・・・、それも凄くしょっぱい!!
ふと前に座っているアベを見ると、ただでさえ人相の悪いアベの顔が、苦痛に歪んでいる。
いまにもテーブルをひっくり返してあばれそうな感じだ。
オレたちは、なんとか麺を食べ終わる。しかし底の沈んだチャーシューやメンマといった具は、あまりにも黒いスープのため、あとどれくらい残っているのかなど、一切見えない。
例え見えてもあまりのしょっぱさで、食べる気はしない。
もはや食べるのが苦痛でさえあるのだ。
しかし横にいる他のお客さんたちは、おいしそうに食べているではないか!!
これは一体どうしたことか?
オレたちの味覚がおかしいのか?
食べている間、オレはコップに数杯の水を飲んでいた。
オレたちはすっかり無口になって店を出た。
しばらく無言のまま歩いた。
ぼそりとアベがつぶやいた。
「コップの水をスープに入れたかった……」
同感であった。
おそらく東京の平均的ラーメンの5倍くらいは塩分があるのではないだろうか……?
とにかくしょっぱかった。
後にその店を絶賛している文章を読んだが、我々とは違う味覚の才能があるのだろう。
また、あの店を絶賛する富山の方々の味覚は我々の想像を絶した才能であるに違いない。
翌日、オレは嫌がるアベを連れて(アベはマジ本気で嫌がっていた)もう一度他のラーメン屋にいってみた。
そこのラーメンも地元では人気のラーメン屋であるという。
不味くはなかった……
でもしょっぱかった……
これも後で聞いたのだが、昔作家の椎名誠が、何かの雑誌で「富山のラーメンはまずい」と正直に書いたことがあるという。
これに対して地元の人たちは、烈火のごとく怒りまくったという話しだ。
と、いうことは、富山を舞台にした映画を撮ろうとしているオレは、いまもの凄く不利なことをしているということになる。
このサイトを読んだ富山の人は、もう二度とオレが作ろうとしている映画に協力してくれないかも知れない。でも書かずにはいられないのだ。
味覚というのは、その土地土地の文化や風俗、気候と関係しており、さらに個人の好みの世界であるのだ。
だから富山のラーメンをマズイとは言わない。
ただこれだけは、言わしていただこう。
富山のラーメンは・・・、しょっぱい!!
(ちなみにオレは、来月にまたしても富山に行くのである。
当然、オレはまたしてもラーメンを食べるつもりなのだ。
そこで「富山のラーメンはしょっぱくない! うまいのだ!!」と怒っているアナタ!
オススメラーメン店が、あるのならぜひお教え願いたく思います)
つづく
●富山奇行13 富山最後の夜
富山に来て4日目の朝である。
実は、昨夜も遅くまでS高校のK先生と酒盛りをしてしまっていたのである。
もはや酒まみれといってもいい状態なのである。
4日目の朝は日曜日であった。
本日の予定は、午後2時から朝日新聞さんから取材を受ける。逆取材をする。
午後4時から読売新聞さんから取材を受ける。逆取材をする。
午後6時からチューリップテレビさんの記者さんと打合せをする。その後飲むというものである。
こう書くと、ずいぶんと忙しそうに聞こえるかも知れないが、すでに新聞社やテレビ局の方々とは、知り合いになっているので、比較的気楽なものであった。
午前中は時間があったので、富山市街を散策する。
午後は先ほど書いた通りの予定をこなす。
そしてチューリップテレビのI記者と、今後の撮影や東京での撮影について、軽く打合せの後、またしても飲み会ということになるのである。
打合せの途中から日が暮れだし、夜といってもいい時間になってくると、一人二人のメンツが増えてくる。
もはやいつものことといってもいい状態である。
自然と酒盛りが始まる。
初めての人もいる。
そんな人にも取材をして、不登校について、どんな思いをしているのかを聞く。それをカメラに収めるのだ。
ほどよく酒が回ってきたときに、タイ式のマッサージを日本で教えているというご夫婦が見えられた。
さっそくI記者が、マッサージをしてもらっている。
しかもご夫婦二人がかりである。
ダンナさんがI記者の足を
奥さんがI記者の首をもみもみしている。
たちまちI記者は、極楽気分になってしまっているでわないか!
ちなみに、I記者は若い女性の記者である。
そのI記者があまりに気持ち良さそうなので、横になってマッサージをされているI記者の耳元に、オレは唇をそっと近づけて、太く低い声でささやいた……。
ええか……、ええのんか……
「ひやぁぁぁああぁぁぁ!!」
I記者は極楽気分など一瞬で吹き飛んだかのように飛び上がった。
富山最後の夜にして、その日以来、オレはセクハラ大王とばれるという不名誉をこうむったのである。
つづく
●富山奇行13 最終回
富山最後の夜が過ぎ、そして富山最後の朝がやってきた。
本日の予定は、KNB北日本放送の『かずいえなおき 朝市RADIO』という番組に生出演をすることのみで、出演が終わったら、そのまま東京へ帰るのみであるのだ。
さて、ラジオ出演というのは初めての経験である。
まして生放送というのも初めてである。
出演はオレと富山大学非常識講師のミヤカワ氏の二人。 ラジオ局には8時40分に来てくれとのこと。
このときも、休日の早朝に関わらずS高校のK先生が車で同道してくれる。
ありがたい話しである。
我々は全員、二日酔いであった。
我々は予定の時間よりも少々早く着いていた。
番組のキャスターの方々や、ディレクターやプロデューサーの方々とご挨拶をし、簡単な打合せをする。
その後は、生番組の進行をガラス越しの部屋で見ていた。
助監督アベは、この富山入りしてから度胸がついたのか、我々が番組に出ている間をカメラに収めたいという交渉をし、生放送中の収録場面を放送ブースの中に進入してビデオを回している。
思えば、富山に来てからアベもたくましく成長しているようである。
ふと、同行のK先生を見てみると、番組の責任者に、自分の高校の生徒を、放送局に連れてきて見学をさせてもらうわけにはいかないかと交渉をしている。
さすが教育者である。
しばらくして、またふとK先生を見ると、こんどはレポーターの女の子に声を掛けている。
今度はナンパをしているように見えてしまう。これだからマッチョなサワヤカ系は得をするのだ。(それに対してオレは、セクハラ大王である)
二日酔いのくせにさすがK先生である……、と、言っておこう……
二日酔いのくせに。
それにしても待ち時間が長い……、待ち時間が長いとロクなことは考えないものだ……
これから出る番組は生放送である。
するとあんなコトやこんなコトを、思わず知らず口走ってしまったら、えらいコトになるんだろーなーなどという不謹慎な考えがアタマをよぎる。
言いたい……
言っちゃダメだ……
言いたい……
言っちゃダメだ……
オレはコッソリと、みんなから離れ、人目につかない場所にあったゴミ箱にアタマを突っ込んで叫びまくった!
王さまの耳はロバの耳!
王さまの耳はロバの耳!
王さまの耳はロバの耳!
王さまの耳はロバの耳!
よし、これでダイジョーブだ!!
こんなこともあろーかと思って、前もって童話をいっぱい読んでおいて良かった。
これから社会の荒波に出ようという良い子たちは、今一度童話を読み直すことをオススメする。
そのおかげで、オレは無事に放送を済ますことができたのだ。
富山奇行最後の仕事を終えた我々をK先生、ミヤカワ氏に富山駅にまで送っていただき、一路東京へと走る特急電車へ乗り込んだのである。
富山奇行は、事件また事件の日々であった。
そして酒また酒の日々でもあった。
さすがに疲れていた。
アベは、疲れているオレに気を利かせてビールを買ってきてくれた。
正直いうと、しばらく酒は飲みたくなかった。
しかしアベの心遣いはうれしかった。
まだ二日酔いがとれていないのだ。
もっと正直に言えば、ビールなど見たくもなかった。
飲み干したオレに、アベがさらに気を利かして言った。
「先生、もう一杯いかがです?」
このときオレは、ふと気がついた。
アベの目が、悪魔のように笑っている。
アベはオレが二日酔いなのを知っているのだ。
これはアベを奴隷扱いをしたオレへの復讐なのだ。
ここでオレがビールは、「もういいよ」と言えば、アベのことだ。
「遠慮はしないでくださいよぉ」
と、にこにこしながらビールを買ってくるに違いない。
そして二日酔いに苦しむオレにムリヤリ酒を飲まそうとするであろう。
そこでオレは、アベに言った。
「いまはビールよりも、熱いお茶が一杯こわい……」
お後がよろしいようで……
(最後のオチがわからない人は、落語の『まんじゅうこわい』を聞いてください)
完
はい、長い再録記事をお読みいただきありがとうございました。前述したように、ぼくが14年前に撮った『不登校の真実』がDVDになりその記念上映会を、26日に行います。入場条件は『不登校の真実』DVD(3800円)を一本お買い上げいただくことですが、よろしければいらしてください。
【映画DVD発売記念上映会】
「不登校の真実〜学校に行かないことは悪いことですか?」
原作・監督:巨椋修
出演:西凜太朗、仁藤優子 ほか
主題歌:「命はじまり」/花房真優(Blood Orange Records)
BMXR-8011 3,800円(税抜)
2017年2月24日発売(Amazonなどで予約受付中)
&全国のTSUTAYA全店にてレンタル開始!
発売元:Mach Visual/株式会社エクセレックス
販売元:株式会社MPDビーエムドットスリー
富山県PTA連合会/富山県精神障害者社会復帰施設連絡協議会/(財)富山YMCA/日本映画監督新人協会・推薦作品
【上映イベント開催決定!】
日時:2017年2月26日(日)15:00に開場
住所:東京都中央区銀座8丁目3番先 高速道路ビル102号
内容:DVD「不登校の真実〜学校に行かないことは悪いことですか?」発売記念上映会
巨椋修・織原りょう子・若木萌サイン会
入場条件:当日会場にお越し頂き、受け付けにてDVD「不登校の真実〜学校に行かないことは悪いことですか?」(3800円)をお買い求めください。
*限定30名様までのご入場とさせて頂きます。先着順にてご入場となります。
特典:「不登校の真実」ポスター
サイン会:上映会終了後、会場ロビーにてサイン会を実施します。DVD表紙、特典ポスター、いずれかお好きな方をご指定頂き、巨椋修監督・織原りょう子・若木萌3名のサインをさせて頂きます。
FHN放送局
巨椋修(おぐらおさむ)拝
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