富山奇行 前編 アベの悲劇
今月24日に14年前に撮った映画『不登校の真実』がついにDVDとして発売されることを記念して、撮影当時富山にロケにいったときのことを記録したドキュメントブログをここに再録する。これは事実談でありこのアホウな男たちは実在する。
●富山奇行 前編 アベの悲劇
2002年9月12日午前11時、オレは東京駅にいた。
目的は、富山県に行くことである。
富山で、自主ビデオ映画の撮影と取材をやることが、この旅の目的なのだ。
そして、この旅では、撮影や取材だけではなく、こちらが新聞社等から取材を受けるというオファーもいただいている旅でもあった。
この映画は、拙著『不登校の真実』を原作に、半分はドキュメント。半分はお芝居の“ドキュメント風”な演出で撮り、観ている人に「不登校とは何か?」を問いかける作品にしようというものである。
この旅は、一人旅ではない。
道連れがいる。
名前をアベという。
以前、地方のCF制作会社で勤務していたのだが、映画監督になりたいという思いを断ち切ることができず、上京してきた男だ。
このアベは、上京してきたのはいいのだが、なぜか映像関係の仕事につくことなく、コンピューター関係の仕事に就いており、それなりにカタギとしてうまくいっていたところに、オレが
「助監督をやってくれないか」
と、声を掛けたのである。
声を掛けたといっても、この映画は、当初の予算10万円で撮る“自主ビデオ映画”であり、オレを含めて、参加する人自身が出費をしても、ギャラなど一切出ないという作品なのである。
だからオレは、アベを誘うときも
「この映画は自主映画で、土日とかみんなが休みのときに、集まって少しずつ撮る作品なんだけど、参加してくれないか」
と、頼んだのである。
アベは
「はい、わかりました」
と、だけ答えたのをいまでもハッキリと覚えている。
しかし、その後オレは、なんとなくイヤな予感がして、一週間ほどしてから、いま一度アベに電話をしたのだ。
「オグラだけど、ハリキリすぎるなよ。この映画は、ただの自主映画なんだからね」
そういうオレに対して、アベの答えは意外なものであった。
「ええ、わかっています。でもわたしはこの映画に賭けてみようと思っています」
「賭けるって、だから総予算10万円の自主映画だよ。オーバーだよ」
「でも賭けてみようと思ったんです。だから
会社を辞めました」
「え……」
「だから会社を辞めたんです」
オレは、受話器を落としそうになるのをこらえるのが、精一杯であった……。
つづく
●富山奇行2 そして空前絶後の旅がはじまった
※これは10年前、自主映画「不登校の真実」を撮ったときの日記。
久しぶりに読んだら面白かったのでアップします。(笑)
「あのな……」
と、オレはアベにいった。
「もう一度いっておくけど、この映画は、自主映画で、スタッフ、キャストは一文も出ないどころか、いざとなったら持ち出しになるような作品なんだよ」
「わかってます」
「助監督というお仕事はな、言ってみれば監督の奴隷のようなものなのだよ。凄くキツイお仕事なんだよ」
「わかってます。師匠、自分を師匠の奴隷にしてください」
「ま、それくらいのカクゴがあるなら、ま、いーか」
「ま、いーです」
と、いうことでアベはこの映画の助監督に決定したのである。
そして数日後、オレとアベは、東京駅にいた。これから富山で取材をするのだ。
新幹線の中の二人は、いつになくはしゃいでいたものだ。まるで、これから遠足にいくガキのように……
しかし、富山は遠かった。
我々は富山に到着したころには、はしゃぎすぎたツケとして、グッタリとしてしまっていたのである。
我々は、このときはまだ、この富山行きが
前代未聞、空前絶後、抱腹絶倒、奇妙奇天烈
な強行軍になろうとはだれも想像していなかったのである。
富山につくと、富山大学非常識講師として有名な、ミヤカワ氏が迎えにきてくれていた。
ミヤカワ氏の案内で、我々は富山での宿に連れていってもらう。
宿といっても、ホテルや旅館ではない。
S高校富山学習センターという、高等学校内に宿泊させていただくことになっているのだ。
学校につくと、まず職員室にいき、先生方にご挨拶をする。
職員室には、M谷先生という美人教師や、M出先生という体育の先生がいらっしゃった。
と、そこへ外からツカツカと職員室に入ってくるマッチョにして色黒。いかのも全身から
『ぼくはスポーツマンです』
という雰囲気を発散させているサワヤカ系の男性がやってきた。
この方が、S高校のセンター長(学校長)のK先生である。
我々は、K先生にこのたびお世話になるお礼とご挨拶を申し上げると、K先生はいった。
「いえいえ、気にしないでください。さて、これから皆さんに泊まっていただく部屋にご案内しましょう」
我々はK先生の後を、ついていく。
教室では、生徒の皆さんが授業を受けている風景がみえる。
そして2階廊下の一番奥の部屋を指差して、K先生が、サワヤカな笑顔でこういったのだ。
「この部屋が皆さんにお泊りいただく部屋です」
オレとアベは、一瞬目をパチクリとした。
なぜならば、その部屋のドアには、これでもかというくらい大きな字でこう書かれていたからだ。
男子トイレ……
と……
つづく
●富山奇行3 さあ怒涛の時間のはじまりです
男子トイレ……
そう書かれたドアを、K先生はサワヤカな笑顔で開けてくださった。
と、
そこには……、総タイル張りの床。
コンクリートの壁。
そう、オレが、昔から何度も利用した、そこには学校のおトイレが、存在していたのだ。
ただ、その男子トイレの場合、ドアを開けると、洗面専用の部屋があり、さらにその部屋には、ドアが二つついている。
そのうちのひとつのドアは半開きになっており、そこには確かに、男子用の便器が見えるのだ。
それを見てオレとアベは思った。
(やっぱり今日からココに泊まるのだな……)
我々の戸惑いは一瞬であった。
旅行にいって、どこかのトイレに泊まる。
これはもう、ちょっとしたハナシのネタである。
このネタは伝説になる。
伝説は神話になる。
オレとアベは
生きながら伝説の男となり、生きながら神話の世界の住人になるのだ。
そこまでオレたちの妄想が膨らんだとき、K先生がもうひとつのドアを開けて言った。
「こちらです」
と、その部屋に入る。
そこは、トイレではなく、和室が二間、別室にはまだ新しい洋式トイレと、バスルームがある。
学校の奥深くに、男子トイレがあり、その男子トイレのさらなる奥に、謎の隠し部屋のごとく、清潔な客間があるのだ。
これこそまさしく
学校の怪談!!
(ちなみに、このS高校の横浜校は、本当に映画『学校の怪談』にロケ地を提供しているのだ)
オレとアベは、とりあえず荷物をその和室に置かしてもらっていると、ミヤカワ氏がいった。
「ぢゃ、いきましょうか」
我々は、何が何やらよくわからないまま、K先生の運転する車に同乗する。
「で、どこへ行くのです?」
と聞くオレに対して、ミヤカワ氏は、何をいまさら聞くのだといった風情で
「これから毎○新聞にいって、この映画について取材をしてもらいます」
ほえ?なんの心の準備もないぞと、言う間もなく、車は毎○新聞富山支局に着き、そのまま取材を受け、この自主映画の意義や主旨などを聞いていただくことができた。
一通りの取材を受けた後、また車にのると、K先生がいった。
「少し早いけど、車を置いたら軽くイッパイやりましょう」
ほっとするねぎらいの言葉である。
その間、非常識講師のミヤカワ氏は、どこかへ携帯で電話をしている。
やがて、携帯を切ると、こともなげにこういったのだ。
「オグラさん、ラジオの生放送が決まりました、月曜の朝8:40からですから、忘れないでくださいね……」
新聞社から取材を受けるという話しは聞いていたが、ラジオは初めてである。
これらの事々が、我々が富山入りしてわずか1時間ほどの間に起こったことなのだ。
まだ怒涛の富山奇行ははじまったばかりなのである。
つづく
●富山奇行4 富山名物とは?
そもそもオレはラジオの収録現場などテレビドラマや映画のシーンでしか見たことがない。
まあ、収録は数日先のことだから、あまり深く考えないようにしよう。それよりも、目先のことである。
K先生の運転する車は、我々が宿泊する学校へ到着する。
ここへきて助監督アベの名刺を用意していなかったことに気が付いた。
しかし富山には、1時間くらいでできるスピード印刷の名刺屋さんがないらしい。
するとたちまち、S高校美人女教師のM谷先生がパソコンで、名刺を作成してくれた。まことにもって感謝感謝である。
アベの名刺ができたところで、すぐに夕食ということになる。
夕食……、というより、地元富山の方々と親睦をかねてイッパイやろうというたくらみである。
実はオレが富山に来たのは、これで2回目である。
1回目のときは、今回この映画でプロデューサーをやってくれている、ミヤカワ氏を取材するためであった。
そのときミヤカワ氏に
「せっかく富山に来たのだから、なにか美味いものを食べさせてくれるお店を紹介してください」
と、お願いしたところ、連れていかれたのは、イタリアンの全国チェーン『サイゼリア富山店』であった。
オレはイタリアンは大好物だし、サイゼリアは、安くてうまいので東京でも利用する。
しかし東京からはるか遠方の富山に行ってまで食べたいとは思わない。
みなみに前回の富山行きでは、2泊3日のうち、ミヤカワ氏に3回も『サイゼリア』に連れていかれた。
おそらくミヤカワ氏の脳内では、世の中で一番美味なるものが、『サイゼリア』のイタリア料理なのだろう。
いや……、前回富山にてミヤカワ氏に案内していただいた料理店は、それ以外にも2店ある。
『マクドナルド』
と
『さぬきうどん』の全国チェーン富山店であった。
それ以外には、やはり全国チェーンの『天狗』という居酒屋にも連れていってもらったこともある。
なにがおもしろくて、富山までいって、『マック』だの『さぬきうどん』だのを食べなければならないのかわからないが、なんだかミヤカワ氏は全国チェーンのお店が大好きなようだ。まあ値段もお手ごろだし、安心だからわかるけどね(笑)。
しかし今回はK先生という方の案内なので、その点は安心である。
魚と日本酒が美味いお店に連れていっていただき、地元テレビ局で活躍されているカメラマンさんや、地元企業の方、新聞社の方などと楽しくおいしいお酒と魚をいただいたのである。
つづく
●富山奇行5 そして助監督アベはスターになった
富山の刺身は美味い。
特にしろエビというのが、結構いける。甘エビとは少々違う優しい甘味があるのだ。
やがて一次会が終わると、二次会へと流れることになる。
その場所には、ビデオデッキがあった。
そして助監督アベのカバンの中には、数年前アベ自身が、5年の歳月と500万円の自費(マジで!)をつぎ込んだ自主ビデオ映画『ヒットマン』をビデオカセットを忍ばせてきているのを、オレは知っていたのだ。
なぜならば、オレ自身が嫌がるアベに、この自主ビデオ映画を持ってくるように厳命をしていたからだ。
今以上に機材の無い中、アベが監督主演したこの映画をみなさんに観ていただくことによって、最低でもこれくらいの映像は、撮れるという証明にもなるからである。
(もちろん、この映画がもの凄くウケることは読んでいた)
アベはシブシブ、自分が監督・主演をした『ヒットマン』をビデオカセットに入れた……。
ストーリーは、腕利きの殺し屋コンビがいて、その殺し屋のうち一人が、撃ち合いで殺されてしまう。
親友をなくしたもう一方の殺し屋は、絶望し、自らのコメカミに銃口をあて、自殺を図るのだが、次に気がついたときは、十数年前にタイムスリップしており、まだ殺し屋にもなっていない時代を生きる、若き日の相棒と、出会うというものだ。
話しは、タイムスリップ以外、すべて超・スーパー・ウルトラ・どすこいハードボイルド作品である。
アベと相棒が扮する殺し屋ときたら、もちろんダーク・スーツにサングラスである。
ちなみにアベは小太り体系で、相棒はスマート……
ここまでいえば、いえばある映画がアタマをよぎるではないか。
そう……
である。
このブルース・ブラザースが、思いっきりしかめっ面をして、ハードボイルドを演ずるのだ。
(相棒の人は、カッコいいし、ハードボイルドシーンが板についているのだが、アベの場合は……、いえ、すばらしい演技でした)
これはすでに
もの凄いパロディ!!
もう富山の夜は、爆笑、爆笑、大爆笑である。
笑いを取るつもりではなく、マジに大熱演であるだけに、余計に笑える。
笑っていないのは、赤くなってもじもじくんになっているアベのみである。
その姿と画面のハードボイルドアベとを見比べてみると、一粒で2度笑えるとはこのことといっても過言ではない。
これは後日談になるが、我々が泊まっている学校へ、この『ヒットマン』のウワサを聞いたある新聞記者が
「ぜひそのおもしろいビデオ映画を観てみたい」といって夜遅くやってきたくらいである。
その記者も涙を流しながら大笑いしたのは、いうまでもない。
アベも過去、一度も複数の人たちに公開していないこの自主ビデオ映画が、遠く富山で大受けするとは夢にも思っていなかったにちがいない。
(しかもギャグとして)
この映画のおかげで、アベは一気に人気者になってしまった。
実際、アベの目つきは殺し屋そこのけに悪く、またアベ自身、以外なほどシャイなため、初めての人と打ち解けるのが苦手なのだが、一本の自主映画が彼を人気者に押し上げたのだ。
まさしく芸は身を助けるとはこういったことをいうのだろう。
そう、アベは遠く富山にきて、スターになったのである。
つづく
はい、長い再録記事をお読みいただきありがとうございました。前述したように、ぼくが14年前に撮った『不登校の真実』がDVDになりその記念上映会を、26日に行います。入場条件は『不登校の真実』DVD(3800円)を一本お買い上げいただくことですが、よろしければいらしてください。
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住所:東京都中央区銀座8丁目3番先 高速道路ビル102号
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