親は子どもの性格を変えられない


●自分は遺伝と環境で自分になる

「氏より育ち」という言葉があります。血統や家柄よりも、その人の性格(キャラクター)は、どう育てられたかで変わるという意味です。


 いかに名門で高貴な家に生まれたとしても、育て方が悪かったら悪い人格になってしまう。


 どんなに貧しくても低い身分に生まれたとしても、育て方が良ければ立派な人格になる。


 どんな子どもでも、育て方や教育で、成績優秀にもなれば劣等生にもなる。


 ほとんどの人はそう思っているのではないでしょうか?


 これは、ある意味(例えば家庭が貧しい場合)希望を与えるような考え方であり、その一方、子どもの成績が悪かったり非行に走ってしまった場合、その親を責めることにもなりかねません。


 しかし、最近の行動遺伝学では、ちょっと違っているそうです。


 ヒトは、両親が50%ずつランダムに遺伝子をもらって生まれますが、ランダムにもらっているわけですから、同じ親から生まれた兄弟でも、性格が違ったり身長が違ったりするそうです。


 そして自分という人間が自分になるのは、遺伝+環境を経て自分という人間になるそうな。




●遺伝のちょっと怖いお話し

 ちょっと怖い遺伝のお話しをしましょう。


・知能の遺伝は80%

・運動の遺伝は80〜90%

・音楽の遺伝は90%

 なんだそうです。


 むむむ・・・、チチよハハよ、私の知能がイタイのと音痴なのは、あなたがたの遺伝の成果かもしれないぞよ。


(参考 引用: 『Webナショジオ 「研究室」に行ってみた。 行動遺伝学・教育心理学 安藤寿康 第2回 「知能指数は80%遺伝」の衝撃』より)


 こんなデータもあります。

 イギリスで、1994年から3年間に生まれた5000組の双子の子どもたちを対象に、反社会的な傾向の遺伝率調査が行なわれた。それによると、「冷淡で無感情」といった性格を持つ子どもの遺伝率は30%で、残りの70%は環境の影響だとされた。この「環境」には当然、子育ても含まれるだろうから、これは常識的な結果だ。


 次いで研究者は、教師などから「矯正不可能」と評された、きわめて高い反社会性を持つ子どもだけを抽出してみた。


 その結果は、衝撃的なものだった。


 犯罪心理学サイコパスに分類されるような子どもの場合、その遺伝率は81%で、環境の影響は2割弱しかなかった。しかもその環境は、子育てではなく友だち関係のような「非共有環境」の影響とされた。


橘玲著『言ってはいけない 残酷すぎる真実新潮新書)


 これはちょっと怖いですね。よく少年や若者による信じられないような凶悪犯罪があると、大衆やマスコミは「親の育て方が悪かったからだ」と決めつけますが、このデータによると


 犯罪心理学サイコパスに分類されるような子どもの場合、その遺伝率は81%で、環境の影響は2割弱しかなかった。しかもその環境は、子育てではなく友だち関係のような「非共有環境」の影響とされた。


 とあります。『共有環境』とは、家庭環境や親の影響のことで、ここでいう『非共有環境』は、親の育て方とはほぼ無関係。つまり少年凶悪犯罪者が出たときに、親を責めたり謝罪を求めるのは、まったくお門違いということになります。


言ってはいけない 残酷すぎる真実 』の著者によると


 マスメディアが親の責任を問うのは、子どもの人権に配慮しているからではない。不吉なことが起ると、ひとびとは無意識のうちに因果関係を探し、その原因を排除しようとする。

(中略)

 子ども(未成年者)が免責されていれば親が生贄(いけにえ)になるのだ。


 とのことです。



●性格は家庭ではなく友人関係や子どもの共同体で作られる

 行動遺伝学によれば、前述したように、知能や運動、音楽の能力も80〜90%は遺伝の影響。


 では性格はというと、神経症傾向、外向性、調和性、固執などの性格的特徴は40〜50%が遺伝の影響とのこと。


 すると残りの50〜60%は環境で作られるということです。


 アメリカの心理学者ジュディス・リッチ・ハリスによると、この親や家庭環境の影響よりも、子どもの友人関係や学校などの子どものコミュニティの影響を強く受けるといいます。


 ハリスの考えは『集団社会化説』いいます。世界中の教育者や心理学者に衝撃を与えたハリスの著書『子育ての大誤解』から少し見てみましょう。

私達の思い通りに子どもを育て上げることができるという考えは幻想にすぎない。あきらめるべきだ。子どもとは親が夢を描くための真っ白なキャンバスではない。

親は子どもたちが仲間集団において好ましくない役回りを押し付けられることを防ぐことはできない。しかしながら、それをわずかでも起こしにくくすることは可能だ。親は子どもの外見を変えることは出来る。子どもを可能なかぎり普通に、そして魅力的にみせることを心がけよう。外見はあなどれない。

一般的にいう自尊心、つまり広い範囲で高まりを持続するものは、子ども時代の所属集団での地位によってもたらされるものだ。

集団社会化説では、家庭環境がいかに悪くても、次の条件が満たされていれば子ども達は正常な大人になれると考える。親のいかなる異常な特徴も遺伝的に受け継がなかったこと(この真偽を確かめるためには養子もしくは義理の子どもたちを被験者にする必要性がある)。怠慢や虐待によって脳に損傷が加えられていないこと。仲間と正常な関係をきづいていること。


 と、ハリスは仲間との交流をとても重視しています。


 ハリスに言わせると、子どもも社会的生き物であり、“群れ”から外れることを極端に怖れる、子どもグループと親の教育方針と対立した場合、子どもは子どもグループを優先し、親のいうことを絶対に聞かないといいます。


 これは行動遺伝学者の橘玲氏も遺伝学的に納得しているようで『橘玲 公式サイト』

 ハリスの「集団社会論」がきわめて強い説得力を持つのは、親であれば誰でも、子どもの友だち選びに介入できない無力を嫌というほど思い知らされているからです。子どもは親の願望や命令とはいっさい無関係に、自分が(無意識に)引き寄せられた友だち集団に加わり、そのなかで(無意識に)自分のキャラを決めていきます(だから、自分がなぜこのような人間になったのかは永遠に謎のままです)。


しかしこのことは、子育ての努力になんの意味もないということではありません。ハリスがいうように、親は、自分の子どもをどこで育てるかを決めることで、子どもの人生にきわめて大きな影響力を行使するからです。

●親にできること 本人にできること

 ハリスの集団社会化説は、一生懸命子育てしている親御さんや、教育関係者には受け入れがたいことかも知れませんね。


 別に受け入れることはありません。一つの仮説ですから。私も全面的に受け入れているわけではありません。

 
 ただ、子どもの世界では子ども同士の付き合いがとても重要ということは、ほとんどの方が納得するのではないでしょうか?


 とすれば、親にできることは、子どもの友だち環境を良くすることとか、子どもがいじめられないようにするとかはできるかも知れません。


 そしてこの集団化説がある程度正しいとすれば、子どもが不登校・ひきこもり・ニートになったとしても、親の責任はそれほど多くないことになります。


 もしあなたが、子どもの頃にいじめられた経験があり、その影響で自己肯定感が低くなってしまい、生きづらさがあるとすれば、それはこれから性格を変えていけばいいのです。


 行動遺伝学では、「遺伝+環境」で性格ができるとあります。しかも子ども時代の友だち環境が強いらしいのですが、ある程度の年齢になれば、自分で自分の環境を変えたり、性格を変えたりすることができます。


 私も子どもの頃や若い頃は、いじめられっこでとてもネガティブでした。


 いまでこそ文筆業や格闘技の指導者をしていますが、成績はいつもクラスで最低、運動会では最下位でした(苦笑)。


 それを言ったところで、いまの私を知る人は誰もそれを信じません。いまではけっこう人気者だと自分では思っているし(笑)。


 人を変えることはできませんが、自分で自分を変えることは全然可能です。




FHN放送局
巨椋修(おぐらおさむ)