反知性主義と心の傷

最近よく聞く言葉に「反知性主義」というものがあります。では反知性主義とは何でしょうか？

作家の佐藤優さんはこのように定義しています。

反知性主義を大雑把に定義するならば、「実証性や客観性を軽視もしくは無視して、自分が欲するように世界を理解する態度」である。

新しい知識や見識、論理性、他者との関係性などを等身大に見つめる努力をしながら世界を理解していくという作業を拒み、自分に都合が良い物語の殻に籠もるところに反知性主義者の特徴がある。合理的、客観的、実証的な討論を反知性主義者は拒否する。
（佐藤優著「知性とは何か」祥伝社新書より）

このような「実証性や客観性を軽視もしくは無視して、自分が欲するように世界を理解する態度」や、

「新しい知識や見識、論理性、他者との関係性などを等身大に見つめる努力をしながら世界を理解していくという作業を拒み、自分に都合が良い物語の殻に籠もる」人というのは、年齢、性別、収入、学歴、職業、思想などに関係なく存在します。

ある人は、自分が気に入らない政治家や政党を攻撃するときに、ある人は、気に入らない国や民族を攻撃するときに、実証性や客観性を軽視もしくは無視して、自分に都合が良い物語を作ったり盲信したりして、「自分は正しい。間違っているのは相手だ」と決めつけ攻撃するのです。

特にいまは、ネットで自分の都合のいい情報のみを集めることが容易にできます。

そしてそういう人は、データやエビデンス（科学的根拠）ではなく、感情や思い込みで語り、行動します。自分は正義、自分は正しいと思っているので、自分の考え方と違う人を悪、もしくは無知と決めつける傾向があります。

こういった考え方の人に、欧米では反ユダヤ主義、日本では韓国や中国、在日外国人をに対してヘイト（憎悪）表現を好む人がいますが、こういった人達は、心理学や精神医学的には、その憎悪対象に自分を投影しているといいます。

心理学や精神医学の投影とは「自分の悪い面を認めたくないとき、他人にその悪い面を押し付けてしまうような心の働き」のことをいいます。

つまり「悪いのは自分じゃない。悪いのはユダヤ人、韓国人、中国人、在日外国人だ」と、すべての都合の悪いことを押し付けてしまうことで、自分は正しい。自分は正義で相手は悪なんだから、相手にはどんなことを言ってもしてもいいんだという心理です。

精神科医の水島広子さんが東京新聞でこんなことを語っています。

およそ常識的な人間関係の中では起こり得ない極端な攻撃は、実は心の傷に由来するものだと言えます。

心に傷がある人は、「もう二度と傷つきたくない」というモードに入っています。ですからいつもピリピリしていて、少しでもそれを予感させるものがあると、極端に攻撃的になるのです。

これは「相手をやっつける」というよりも単に「脅威を排除する」ということなので、大切なのは勢いです。内容自体は支離滅裂だったり妄想的だったりしますし、通常のその人の言動とは全く違ったものであることが多いです。

また、心に傷を負っていると、自分に自信が持てないため、「仮想敵」を作り自分が上位でいることによってしか自分を保てない、という側面もあります。団結したがるのもその一つの例です。
（『東京新聞【とちぎ　こころの健康便】ヘイトスピーチやる心理は？　「心の傷」から攻撃的に』より引用）

水島医師はさらにこう言っています。

冒頭に「およそ常識的な人間関係の中では起こり得ない」と書きましたが、それは本当のことです。常識的な人間関係の中には、「つながり」があります。人間として共有できる体験があったり、共感できる感情があったりするのです。

「ヘイトスピーチ」や「炎上」がリアルな人間関係の中で起こらないのは、「つながり」があるところでは不可能だからだと言えます。

つまり、ヘイトスピーチといったものはリアルな人間関係のあるところでは、起こりにくいと。不登校・ひきこもり・ニートの人や、生きづらさを抱えた人は、どうしても孤独になりがちです。また、心に傷を負っている人も少なくありません。

そのため、ある人は自分を攻撃し、ある人は他人を攻撃することで、心の平衡をたもとうとする人もいます。

どうか、なるべくいろいろな人とつながってください。

そしてどうか、「新しい知識や見識、論理性、他者との関係性などを等身大に見つめる」ようにしてください。

そうすると、いまより毎日がずっと楽に楽しくなりますよ。

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巨椋修（おぐらおさむ）

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巨椋修（おぐらおさむ）は陽明門護身拳法という護身術＆総合格闘技の師範をやっています。

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