第8回心の病気を考える「境界性パーソナリティ障害



境界性パーソナリティ障害の患者は、医師すらも振り回す

 境界性パーソナリティ障害は、別名をボーダーラインといったりします。

 元々は、精神病と神経症の中間にあたる境界、つまりボーダーラインにいるとされており、全てのパーソナリティ障害を指す意味もあったようです。

 境界性パーソナリティ障害の特徴は、激しい気分の変動!

 数時間前まで、天国にいるような上機嫌が、数時間後に大荒れになり罵声を人に浴びせたり、「これから自殺をする!」と言ってみたりします。

 これは、パーソナリティ障害全般に見られる、オール・オア・ナッシング(全てかゼロか)を文字通り体現しており、そのため家族や周囲の人を振り回し、同時に本人を苦しめることになります。


 また、境界性パーソナリティ障害の人は“見捨てられ感”が非常に強く、相手から見捨てられないために、常軌を逸した行動をとることもあります


 そのため、境界性パーソナリティ障害を治療する医師や治療者は、必ず精神を病むとさえ言われているくらい大変なのです。


 それは境界性パーソナリティ障害である患者が、医師に対して、パーソナリティ(人格)を否定し、罵詈雑言を浴びせたり、時には暴力をふるったかと思うと、医師を神様のごとく頼りにするなど、治療者を振り回すことがあるため、専門家の医師や治療者すら、振り回されてしまうほどなのです。


境界性パーソナリティ障害の人との付き合い方

 ぼくの、知り合いの精神科医の話しによると

「わたしには境界性パーソナリティ障害を研究していた先輩医師が、2人いましたが、残念ながら2人とも自殺をしてしまいました。次はわたしの番かも知れませんね……」

 と、シニカルな笑い顔をしながら語ってくれたのを思い出します。

 そのため、治療者は、患者と“約束事”をしてから治療に入ることが多いようです。

 例えば、「治療時間を守る」、「治療者の自宅へ電話をしてこない」などといったことです。

 そういった“約束”を破った場合、治療を中止するということもあるそうです。

 この方法は、家族のように一緒に暮らしている人には、難しいのですが、応用することはできます。

 つまりルールを決めること。

 境界性パーソナリティ障害の人は、気持ちの変動が大変激しいので、相手が興奮した場合、気分が落ち着くまで、しばらく離れるというルールを作るなどして、お互いが疲れたりストレスをためこまないようにするといいようです。

 家族や友だちの人は、境界性パーソナリティ障害の人に振り回されないように一定の距離とルールを作って接することが、お互いのためといえるでしょう。

 境界性パーソナリティ障害は、親子関係の歪みなど幼少期から、作られた性格であったりするわけですから、周囲に人は、その言動に振り回されないように対応する必要があります。

 いってみれば、「冷静」に、そしてある意味での「あきらめ」も、必要となってくるでしょう。

 気分変動が激しいわけですから、そういうときは、対抗するよりも避ける。距離をおくといった行動がいいようです。

 パーソナリティ障害の人が、興奮して暴れたりしたときは、興奮や激怒はいつまでも続きませんから、一時その場を離れて、落ち着いてから話しを聞くようにしたほうがいいようですね。

 見捨てられ感が強い境界性パーソナリティ障害の人は、頼りになる人に対して、付きまとってみたり、ストーカー行為をすることもあります。

 また、その人がどこまで自分を見捨てないかと、“実験”をすることもあります

 つまり、その人が嫌がるようなこと、困るようなことをやったりして試そうとします

 そのいい例が、「これから自殺をする」などといった宣言などですが、そのときの対応などは、できるなら医師などに相談して適切な言動がとれるようにしておいたほうがいいでしょう。

とにかく振り回されないことです。


境界性パーソナリティ障害の診断基準

境界性パーソナリティ障害の診断基準は、アメリカ精神医学会 DSM−IVによると次のようになります。

 対人関係、自己像、感情の不安定および著しい衝動性の広範な様式で、成人早期に始まり、種々の状況で明らかになる。 以下のうち、五つ(またはそれ以上)で示される。

1. 現実に、または想像の中で見捨てられることを避けようとする気違じみた努力。
  注:基準5で取り上げられる自殺行為または自傷行為は含めないこと。


2. 理想化とこき下ろしとの両極端を揺れ動くことによって特徴づけられる不安定で激しい対人関係様式。


3. 同一性障害:著明で持続的な不安定な自己像または自己感。


4. 自己を傷つける可能性のある衝動性で、少なくとも二つの領域にわたるもの(例:浪費、性行為、物質乱用、無謀な運転、むちゃ食い)。
  注:基準5で取り上げられる自殺行為または自傷行為は含めないこと。


5. 自殺の行動、そぶり、脅し、または自傷行為の繰返し。


6. 顕著な気分反応性による感情不安定性。(例:通常は二三時間持続し、二三日以上持続することはまれな、エピソード的に起こる強い不快気分、いらいら、または不安)


7. 慢性的な空虚感


8. 不適切で激しい怒り、または怒りの制御困難(例:しばしばかんしゃくを起こす、いつも怒っている、取っ組み合いのケンカを繰り返す)。


9. 一過性のストレス関連性の妄想様観念または重篤な解離性症状。


 これを見ても、いかに境界性パーソナリティ障害の人が不安定であるかがわかるでしょう。


●パーソナリティ障害と自殺の危険性

 境界性パーソナリティ障害の人の多くは、親から虐待を受けたためという例が多く、境界性パーソナリティ障害に、女性が多いのは、性的虐待を受けた場合が多いという説もあります。
(すべてという意味ではありませんので、ご注意を!)


 また、虐待は肉体や言葉の暴力だけではなく、過保護・過干渉といった“優しい虐待”であることもあります。

 親自身が境界性パーソナリティ障害であることも多くそのため、

「ボーダーラインは、ボーダーラインが作る」

とも言われています。

 境界性パーソナリティ障害の人は、「人から見捨てられるのではないか?」という恐怖が多く、自己否定感も強いため、何としてでも関心を自分に向けたいと思い、自殺を画策することがあります。

 そしてときには本当に死んでしまうということもあります。

 東京都の精神科救急医療の拠点病院である松沢病院に2006〜07年に入院した患者のうち、自殺未遂を経験した人を調査した結果、約6割が境界性パーソナリティ障害だったほどです。


 周囲の人が、境界性パーソナリティ障害の激しい気分変動に対して、我慢をしていても、あるときつい一言文句を言ったために、衝動的に手首を切るとか、劇薬を飲み込むということをやってしまう場合もあります。

 他人とのトラブルも多く、トラブルメーカーとして、あるいは迷惑な人として、人に受け入れられないこともよくあります、そのため不登校や、ひきこもり、ニートになる例もあります。

 また、他パーソナリティ障害や神経症うつ病、アルコールやその他の薬物依存などと合併することもよくあります。

 境界性パーソナリティ障害にせよ、他のパーソナリティ障害にせよ、それを改善するのは長い時間がかかるといわれていますが、だいたい30代になると、少しずつ症状がおさまり、多くの場合うつ病に落ち着くとも言われています。


 最後に、パーソナリティ障害に苦しむ当事者には、自分で自分を見捨てる必要なはいということです。

 自分で自分を振り回す必要もないということですね。


●まとめ

境界性パーソナリティ障害の人は“見捨てられ感”が非常に強く、相手から見捨てられないために、常軌を逸した行動をとることもあります。

・ その症状は医師すらも振り回すほど激しいものです。

境界性パーソナリティ障害の人は自殺の危険があります。

境界性パーソナリティ障害の人は、自分で自分を見捨てず、自分で自分を振り回さないようにしましょう。






FHN放送局
巨椋修(おぐらおさむ)拝



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巨椋修(おぐらおさむ)は陽明門護身拳法という護身術&総合格闘技の師範をやっています。

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