正しい怒り方

多くの人は、正しい怒りの表し方って言うのを習ったことがないでしょう。

まあ、学校じゃ教えてくれない。(笑)

武道には、“正しい怒り方”というのがあるんです。

もっとも、武道をやっている人のほとんどは、それを知らない。

と、いうか教えてない。

武道的に言えば、そういったものは師の姿から学ぶものですから、わざわざ教えてはくれません。

だから、もし、武道をやっている人で、これからいう間違った怒り方をしている人は、修行不足か、師から学んでいないと言えましょう。

武道的な正しい怒り方を、非常にわかりやすく言葉にすると、こうなります。


「頭にきて怒るんじゃない。腹を立てるんだ!」 


え? どういう意味かって?

つまり、カ〜ッと頭に血を上らせるんじゃなくて、腹を立てる。

頭に血を上らせちゃったら、目の前が真っ白になって自分を見失ってしまうでしょ。

武道っていうのは、本来合戦とか斬り合いといった究極を想定して、発達している文化ですから、カッとなって前後が見えなくなるとダメなんです。

カッとなっていても、相手の急所はここ、いまここが弱ってるとか、複数の相手に囲まれながら闘っていても、戦いの筋道とか、逃げ道はあそことか考えてなきゃならない。

だから、肉体はフル稼動していても、頭脳は冷静でいないといけない。

もっと言えば、カッとなってもいい。

戦いの場では、カッとならないといけない場面もあります。

そんなとき、わたしが弟子に伝えているのは


「キレてもいいから、そんなときは、もう1人冷静な自分を置いておけ」


ということですね。

これは私生活でも言えることで、怒りを感じるのは生きている限り当たり前なんです。

怒りを感じたときは、それに対処しないといけない。

怒りというのは、最大級の自己主張でもあるわけです。

あるときは、わがまま。またあるときは、理不尽な行為に対抗するために。

そのとき、頭に血を上らせてはいけない。

頭に血が上るとどうなるか?

前後の見境がなくなる。

結果、暴力をふるってしまうかも知れない。

殺人を犯す人のほとんどが、カッとなって、見境をなくして人を殺してしまう。

つまり正しい判断ができなくなる。

また、怒声も違ってくる。

頭に血が上ってしまったときは、上半身に力が入っていますから、どうしても声が、うわずってしまい金切り声になる。

腹から怒っている人は、“ずん”と、どっしりとした声になります。

どちらも相手は、ドキッとするんですけど、金切り声は人の感情を逆なでするんですよ。

おまけに軽い。

結果、相手も怒りに反応してケンカになる。

また、金切り声は、ガラスに爪を立てるような声で、自分の感情にも不快にさせますから、自分の声で自分が不愉快になり、どんどん怒りが増幅されていきます。

よくお母さんが、泣いている子どもを

「泣くんじゃありません!」

なんて金切り声で怒鳴ってる。

すると、子どもは余計に泣く。

お母さんは、自分の声と子どもの泣き声に反応して、ますます怒鳴る。

子どもはますます泣く。

なんて、姿を町で見かけたりしますが、それは周りにも迷惑だし、すごく醜い姿です。

これで、手が出たら、さらに子どもは泣き、お母さんはいらだってますます子どもを叩くようになります。


だから、頭に血を上らせて怒ってはいけない。


本当は怒らない方がいいんですけど、仕方なく怒るとしたら、腹から怒るんです。

相手の目を見つめながら、落ち着いて、しっかりと自分の主張をしてください。

本当の怒りは金切り声のような軽いものではなく、“ずん”と心に響く重いものです。

腹から怒っているときは、どこかに冷静な自分がいますから、自ら興奮することもない。

頭に血が上った怒り方は後で落ち込みますが、腹から怒ったときは、自分の主張をいうわけですから、それほど落ち込みません。

相手もその方が、頭に血が上って怒るときよりも、冷静に聞いてくれるものです。

なるべくなら怒らない方がいいんですけどね。(笑)



FHN放送局
巨椋修(おぐらおさむ)