相談事例2;自傷癖のある少年
その少年の左半身は、数百箇所の傷が残っている。
すべて自分で傷つけたものだ。
左半身に傷があるのは、少年が右利きで、傷つけやすい場所が左半身だからである。
もちろん、右半身にもたくさんの傷があるが、左ほどは目立たない。
左腕などは縦横無尽ともいえるくらい傷をつけているため“蛇腹”になっているくらいである。
少年は子どもの頃から、虐待を受けて育ってきた。
両親はそれを虐待だと思ってはいないようだ。
両親とはわたしも会ったが、両親ともどちらかというと内気な感じがする人であった。
母親は、いつも不安そうな感じの女性であり、いつも“困った…… 何をどうしていいのかわからない……”という雰囲気をかもし出している人であった。
少年が学校を休みがちになったのは、小学校の高学年の頃からであるという。
中学生になると、拒食症になり、精神科に入院する。
高校は通信制の学校にいった。
中学・高校はほとんど学校に行かず、自宅にいるか入院しているかが、彼の青春であった。
父親の暴力や暴言は、いつもあるわけではないが、ときどき爆発され、馬乗りになって殴られるということもあるという。
母親は、ただうろたえているばかりであるという。
それ以外のとき母親は、少年にも、夫にもいつも愛想笑いで接しているという。
父親はサラリーマンであり、年収も決して悪くはないらしい。
中学高校時代、友だちがいなかったわけではないが、たいていの場合長続きはしなかった。
いつも一言多いため、人から嫌われてしまうのだ。
一言多い、嫌われるようなことを言っているらしいということは、少年自身も感じていたらしいが、実際に人と話しているとき、対人関係の“微妙さ”がわからないという。
そのため、人と会うのが怖くなってしまったり、声が小さくなりすぎてしまったりする。
ときには、まったく喋れなくなってしまうことがある。
反面、調子のいいときやお酒を飲んだときは大声で、はしゃいでみたりもする。
しかし、そのときも多くの場合、自分をアピールしすぎたり、調子に乗りすぎたりして、周囲の人とトラブルになることが多い。
そしてその後、ひどく落ち込むことになる。
また、まったく関係のないとき唐突に、そんな嫌な自分を思い出してしまい、カッターで体を切り刻んだり、睡眠薬や安定剤を大量に摂取してしまい病院に運ばれたこともは何度もある。
少年は高校を無事卒業でき、現在は大学に通っている。
ときどきアルバイトをやるが、それも人間関係のトラブルで長続きしない。
目下の目標は、アルバイトでお金を貯めて一人暮らしをしたいというものだが、アルバイトが続かないため、お金は貯まらない。
少年がわたしに言ったことがある。
「自分はなんで生まれてきたかわからないんですよ。いまでもときどき、生まれてこなかった方が良かったんじゃないかと思います。とにかくいまは、次のアルバイトを長続きさせて、はやくいまの両親から離れたいと思ってます。でもね、お母さんがいつもいうんですよ。アンタなんかに一人暮らしはできないってね。なんかやる気なくなりますね」
少年の今後がどうなるか、わたしにもわからない。
できれば……
彼自身が、他人や両親との距離をうまくとれるようになり、両親から自立できるようになればと思うばかりである。
※わたしは取材者であり、カウンセラー等の資格もありません。また相談を受け付けるということもしていないことをご了承ください。
今回書いた記事は、プライバシーを考慮して変更して書いていることも合わせてご了承ください。