相談事例1;何もしなくなった母親

ぼくは『不登校・ひきこもり・ニート』の取材者であって、支援者でもなくカウンセラーでもセラピストでもありません。

しかしときどき相談を希望する方もいらっしゃる方もいるのですが、そういう場合は基本的にお断りをしております。

しかし中には、遠く北海道や九州から、わたしと会うために上京してきてくださる方がいたり、また、どうしても……という場合は、相談を受けるということではなく、ただ会って話すという意味でお会いすることもあります。

これから書く話しは、そんな中でお会いした方々のことなんですが、プライバシーを尊重するため、若干、話しを変えて書いておりますことをご了承ください。



●息子さんが不登校・ひきこもりになり苦しんでいるお母さんの場合


ある地方都市で、息子さんをお持ちのお母さんです。

長男は、現在20代前半で不登校からいまはひきこもりになっています。


お母さんを仮にAさんとしておきましょう。Aさんは、なぜ息子さんが、不登校やひきこもりになったのか、よくわからないといいます。



お父さんは、そこそこの企業に勤めておられ、経済的には、それほど心配がないとのことでした。

Aさんは専業主婦で、お話しをうかがっていても、特に子どもを虐待したとかはなさそうです。

ただ、Aさんご自身がいつも何かに迷っているような不安定感はありました。

お話しを続けていると、お父さんはなかり熱心な“市民活動家”であることがわかりました。

親があまり一般的ではない思想にハマっていたり、熱心な新興宗教の信者である場合、当然子どもは親の影響を強く受けるわけですから、友だちから仲間ハズレにされてしまうことがあります。

さらに、Aさんは専業主婦ですが、家事にあまり関心がなく、料理や洗濯、掃除などはお父さんがやるか、たまにご自身でやる程度だといいます。

Aさんはいいます。

「わたし、もうどうしていいかわからなくて……、子どもが不登校になったとき、有名なフリースクールの先生の講演を聴きにいったんですけど、そこでは“子どもに登校刺激をしてはいけない”と聞かされて、それを信じてこれまで何もしなかったんです。息子が中学を卒業しても“何もしませんでした”」

家庭内暴力とかは、ありませんか?」

「ありません。でもよく、わたしや主人を怒鳴りつけたり、物を投げつけたり、壁に穴を空けたりはします。でもそれはどこのご家庭でもあることでしょう?」


たしかに、たまにあることです。特に『不登校・ひきこもり・ニート』系の子どもの場合は多かったりします。Aさんの場合、大騒ぎするほどのことでなないのかも知れません。


Aさんは、今後しばらくこのまま様子をみるといいます。

実はこれが難しいところで、不登校の場合は“登校刺激をせず見守る”ことが大切とされています。

ただし……

同時に、子どもへの受容、子どもへの言葉がけが大切になり【放置とはまったく違うと】いうことです。


不登校の場合、年数がたてば、自動的に卒業の年齢になることで【不登校問題】から【ひきこもり】問題へと移行します。


【ひきこもり問題】の場合も基本的には、子どもを“追い詰めるような刺激”はせず、受容と言葉がけが大切となってきますが、不登校と違い、年齢制限がありません。

つまり、いつまでもだまって見守っているということが難しくなってきます。


しかし逆にある意味で、子どもが15歳、18歳、20歳、22歳というある意味ケジメとなる年齢がきたとき、親子が対話をするチャンスであるともいえます。

高等学校卒業程度認定試験」(高認)を受けて、進学や予備校に通うことで、ひきこもりからの脱出のチャンスになるかも知れません。

あるいは通信制の大学に進学することで【大学生】という身分になるチャンスであるかも知れません。

ちょっとしたアルバイトをするチャンスでもあります。


Aさんの息子さんの場合、20代ということで、これからまだ多くのチャンスがあるといえます。

とはいえ、ひきこもりの人は、親からの押し付けがましい介入も、無視も嫌います。
(これはひきこもりだけに限らず、すべての人にとってそうですね)

ですから、押し付けではなく、またイライラした言葉がけではなく、あいさつ程度の言葉をかけること、『不登校・ひきこもり・ニート』の人は、人間関係が苦手な場合が少なくないので、いきなり無理をせず、少しづつ慣れていくようになればいいですねと伝えますと、少しほっとした様子でした。

Aさんは、これまで自分が周囲の人から、あるいはご家族から責められているような気がしていて、とてもつらかったそうです。

誰にもいえないことを、語ることでストレスが少し晴れたのかも知れません。


その後、Aさんとの連絡では、自分でアルバイトを探し出し、ときどき辞めたりもしながらも、働くようになったそうです。


まだまだ、これから大変なことがあるかも知れませんが、まずは良かった良かった。(笑)