サラリーマンもいいけれど……


 

日本になぜ義務教育が生まれたかというと、それは『富国強兵』のためなんですよ。

 福沢諭吉という人が書いた『学問のすすめ』には、次のように書かれています。

ちょっと現代語訳にして見てみましょう。

 

 天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らずと言われている。 されば天より人を生ずるには、万人は万人、皆同じ位にして、生れながら貴賎上下の差別なく……」

 

 

と、人間の平等を説き、さらに

 

「いま広く人間世界を見渡すと、賢い人あり、愚かなる人あり、貧乏人もあり、富める人もあり、貴人もあり、下人もあり、そのありさまは、雲泥の差があるのはどうしてか?」

 

 

と、世の中に賢い人とバカ、貧乏人と金持ちがいるのはなぜか? と、読者に問いかけています。そして福沢諭吉クンのお答えは次のようになります。

 

「その理由は、実にカンタンである。人は、学ばないと賢くなれない。賢くない人は、愚か者となる。つまり賢人と愚人の差は、学ぶか学ばないかである」

 

と、こうなる。さらに

 

「医者、学者、役人、大商人や大百姓は貴き人であり、貴き人であれば、おのずと家は栄え、下々からみれば、とても及ばないようなるが、その元をたずねれば、学問の力があるかないかだけで、その差が生まれたのである」

 

 

さらに

 

 

「およそ世の中に無知文盲の民ほど、憐れで悪しきものはない」

 

 

などという、現代の教育者や政治家は、言わない(言えない)ようなこと、不登校関係者なら激怒しかねないようなことも書いています。(笑)

 

 この福沢諭吉の説く『学問のすすめ』的考え方は、いまでも日本人の基本的思想となっており、別に間違ってはいないんですね。

 

福沢のこの考え方は、明治維新後という、いつヨーロッパ列強から植民地化されてもおかしくない状況の中、国を富ませるために必死であった時代背景があります。

 

そして、この『富国強兵』のための学校教育は、第二次世界大戦後、富国のための教育になって行くんです。

兵隊がいなくなったのだから、『強兵』を作るための教育は不要になったのですが、兵隊の代わりになる職業があてられます。

つまり

 

『富国サラリーマン兵』

 

戦前にも、サラリーマンはいたんですが、その多くは、やがて独立して一国一城の主になるのが夢という思考だったようです。

 

ところが敗戦後、サラリーマンがどんどん増えていくようになります。

 

それもやがて独立して社長になりたいというのではなく、一生無事に勤めあげたいという公務員型の人が増えてきます。

 

高校なんかも、工業科、商業科よりも『普通科』つまり職業訓練のための学校ではなく、会社員に就職目的か、進学のための学校の方が優秀であるという認識が増えてきます。

 

普通科……

 

おもしろい科目ですねえ、なんつっても普通を名乗ってるんですから。(笑)

 

まあいいや、いまの義務教育はね、優秀なサラリーマンを作り出そうとその1点のみを目指しているように思えるのですよ。

 

福沢諭吉が言ったように、学問がないゆえに貧しい人は、いまでもたくさんいると思います。

ただし、学問や知恵というのは、サラリーマンになるためだけに存在しているわけじゃないんです。

学問というのは、生きるための知恵でしょ。

生活を楽しむための知恵でしょ。

誰かから押し付けられた価値観を、信仰することじゃないと思うんですよ。

 

戦後、日本は『富国』になりましたけど、『サラリーマン兵』は、ばたばたと倒れていっているじゃないですか。

 

サラリーマンもいいけれど、他にもいろいろな生き方があるくらいに思っていていいんじゃないですかねえ。 

人間なんて、何をやっても生きていけるもんですよ。

それでいいじゃありませんかって思うんです。

 

 



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