心のお薬との上手な付き合い方 (加筆修正版)

『第二回 FHN放送局』、諸事情で録画することが出来ず、そのため、もう一度番組を観ることができません。

しかし、ゲストとして来ていただいた精神科薬物療法認定薬剤師のはらけいこさんのお話しを、もう一度聴きたいという方もいらっしゃいますので、番組ではらさんが語っていたことを、いま一度まとめてみました。

はらさんへわたしたち『FHN放送局』が出した質問は

抗うつ薬は、軽・中度患者に効果がないと聞いたのですが?
うつ病は薬を飲まないと治らないのでしょうか?
抗うつ薬を飲むと暴力的なったりすることがあると聞いたのですが?
・心のお薬との上手な付き合い方

の4点です。

これらは、最近マスコミで報道されたものやら、あるいは当事者のみなさんから寄せられた質問だったりします。

関心のある方への参考になればと思います。


解答:精神科薬物療法認定薬剤師 はらけいこさん



抗うつ薬は、軽・中度患者に効果がないと聞いたのですが?

私は医師ではないので、診断のことはよくわからないのですが、
まず、ここでいう軽・中等度または重症のうつ病患者さんというのが、
本当に「うつ病」であるかということが疑わしいと、私は思います。

うつ病」というのは、様々な要因で脳の神経伝達系に障害が起こる病気なのですが、
ここで、軽・中等度または重症のうつ病と診断された方の中には、
病気まではいかない、いわゆる「うつ状態」の患者さんが、
含まれていたのではないかと思います。

うつ状態」というのは、気分が落ち込んで、
元気や食欲がなくなってしまって、
ちょっと睡眠もいつもと違う…みたいな状態です。
皆さんも経験ありませんか??
もちろん「うつ病」でもこのような状態になります。

この状態で病院にかかった場合には、
軽症・中等症または重症の「うつ病」と診断される可能性が大いにあると思います。

この記事では、
軽度・中等度または重度「うつ病」と診断された人が
抗うつ薬を飲んでもプラセボを飲んでも
効果に差がなかったといっていますよね?
それは、このなかには単なる「うつ状態」の人も含まれていて、
そういう人は、プラセボを飲んでも治ったから、
抗うつ薬プラセボとの回復効果には
さほど差がなかったのであろうと思うのです。

プラセボとは、
薬を開発するときや、市販された薬が本当に有効であるか試験するときに使うもので、
「薬ですよー」とお医者さんに処方される薬なのですが、
実は有効成分が入っていないというものです。
そのプラセボを飲んだ患者さんと、
有効成分の入った薬を飲んだ患者さんで
治療効果にどれだけ差があったか…っていうことで
薬が有効か無効かを判断します。


うつ病は薬を飲まないと治らないのでしょうか?

先ほども軽症中等症うつ病の話が出てきましたが、
ひとくちに「うつ病」といっても様々な症状の方が居られます。

重症の方だと、トイレに行く気力もなくて、
失禁し続けてしまう方なども居られます。
そのような状態になってしまった方が、薬を使わないで回復するのは
かなり難しいと思います。

逆に、うつ状態が続いていたけれど、
休息や環境整備を行ったことで、薬を使わなくても回復する方も居ると思います。
もともと人間には自然治癒力がありますから、
どんな病気でもそうですが、治そうという力が働きます。
薬は、その力を最大限に発揮させる手伝いをするものであって、
「薬を飲めば病気は治る」というものではないんですよ。
逆に、薬だけ飲んでいても病気は治りません!

例えば風邪だったり、他にも何でもそうなのですが、
薬だけ飲めば治るかというと、そんなことはなくて、
休養であったり、栄養であったりが、
とても大事だと思うのです。

うつ病」も同じで、
休養や栄養をとったり、心の整理法を身につけたり、
ストレス解消していったり、環境を整備したり、
様々な治療を総合的に行うことでゆっくりと回復してゆくのだと思います。


抗うつ薬を飲むと暴力的なったりすることがあると聞いたのですが?

事実だけを述べれば、そのようなことはあると思います。

それにはいくつかの原因が考えられていて、
おそらくそのうちのひとつが原因ということではなくて、
いくつかの要素が合わさって、
結果的に暴力的になってしまった人がいるのだと思います。

ひとつ目として考えられることは、元気の回復です。
そもそも「うつ病」というのはエネルギーがなくなってしまう病気なので、
病気の渦中に居るときは
怒る気力や暴力を振るう気力がなくなってしまいます。
自殺したいと思っていても、
実際に行動する気力もなかったという話も、聞いたことがあるかと思います。

ところが、薬の効果やその他の治療の効果が出て、
うつ病」が回復してくると
自分の感情に基づいて行動する気力が、少しずつ出てきます。
ですから、その感情が怒りであって、それを暴力という形で表現する方も
中にはいるだろうなぁと思います。

しかし、家族や周りの人はびっくりするわけですよね。
それまで落ち込んでいた方が暴力を振るうわけですから。
治療の中で、気持ちを言葉で表す練習も
したらいいと思います。

ふたつめとして、
ごくまれな副作用ですが、「アクチベーションシンドローム」というものがあります。
抗うつ薬を飲み始めた頃や量を増やしたときに、
不安や焦りがあらわれたり、怒りっぽくなることがあるのですよ。
なんで「アクチベーションシンドローム」が起こるかということは
まだ詳しくわかっていません。

みっつめとして、薬が効きすぎて、躁状態になってしまうことがあります。
これは、もともとの病気が「うつ病」ではなくて
躁とうつを繰り返す「躁うつ病」の人に多いのですが、
躁状態になると、喧嘩っ早くなる人はけっこういます。

抗うつ薬を飲むと暴力的になるという話は、
いくつかの事例があったからニュースにもなって報道されたのですが、
その原因というのは、特定するのは難しいと言われています。
薬を飲んでいて、なんかおかしいかな?って思ったら、
早めに相談するのが一番いいと思います。


●心のお薬との上手な付き合い方

心の薬には本当に様々な種類の薬があって、
本当に色々な使い方があります。

例えば、処方された薬を飲むと、気分は楽になる気がするけど、
なんだかちょっと、頭がぼーっとするというようなことがあったとします。
そういう時は、じっとひとりで我慢しないで、
勇気を出して医療者に相談してみてください。
薬の量を調整する、薬の種類を変える、薬の飲み方を変える、
または薬が身体に慣れるまで待つなどなど、
たくさんの方法があります。

ここでいう「飲み方を変える」というのは、
例えば1日2回朝夕1錠ずつで飲んでいたけど
飲むと気持ちが悪くなるような気がする…といった場合に、
じゃあ、寝る前に2錠飲みましょう…というような工夫です。
薬の性質によって、1日2回や3回飲まなくては効果がないものもあれば、
1回にまとめて飲んでも効果が変わらない薬もあります。
薬の特徴というのは、個々の薬によってずいぶん違います。
だから薬剤師は、覚えるのが大変です(笑)

それと、薬の効果や副作用の出かたは、
その患者さんの体質によってもかなり大きく異なります。

たまに、「友達に『この薬は眠れなくなるからやめたほうがいい』って言われたんですけど…」
などという話を聞きます。
そういう時に私は、
「薬の効果や副作用は、その人その人で違うので、
みなさんがそうなるわけじゃないのでためしてみましょう」って言うのですが、
なかなか信じてもらえません。

あと、感じていることはなんでも話してほしいと思います。
話しもらわないと、医療者は気付かないことが多いし、
あえてこちらからは聞かない場合もあるので。

ご自身の勝手な判断で薬を調整すると、
かえって症状が悪くなることがあります。
薬の種類によっては、急にやめると深刻な症状が出る薬もあります。
気になることは些細なことでも良いので、
何でも相談してみてください。
よろしくおねがいします。