ひきこもりや精神疾患者は危ない人たちなのか?

 

●ひきこもりのイメージは?

 さてさて、みなさんは「ひきこもり」と聞いて、どんな映像やイメージを思い浮かべるだろうか?

 

 多くの人は長髪、無精ひげ、汚部屋、一日中ゲームばかりやっている、よくわからないが気持ちが悪いとか、そういったものかも知れない。今年3月末にNHKがひきこもりを特集したとき、あるひきこもり当事者が取材されたときのこと。

f:id:fhn:20190624131533j:plain

NHKニュース7』より

 ネット上では「これは捏造。ひきこもりにしては小ぎれいすぎる」といったたぐいのヤラセ疑惑がでた。つまりそういったヤラセ疑惑が出るほど、ひきこもりのイメージが、固定化しているということだろう。

 現実では、ゲームばかりする人もいれば、ゲームなどしない人もいるし、部屋の片づけをしない人もいれば、奇麗好きな人もいる。つまりひきこもり以外の人と同様、人それぞれなのだ。

 

●ひきこもりの犯罪率は低いが・・・

 今年5月末に川崎で、51歳のひきこもり者が児童ら20人を殺傷するという事件が起こった。

 その事件の影響で、元エリート官僚の父親が息子を刺殺するという事件が起こった。

 

 立て続けに起こったこの2件の事件で、多くの人は『ひきこもり』=『危険』を感じるかも知れない。

 

 では実態はどうなのか?

 大阪大学井出草平さんによると

 

警察庁警察白書』平成17年度版によると、刑法犯数は2186.6万人で、日本の総人口は127619万人であるので、犯罪率は1.7%ということになる*2。また、殺人以外の犯罪では「暗数」*3と言って犯罪が起こっていても、実際に事件にならないものが膨大に存在しているので、実際の犯罪率は、この数値よりもはるかに高い。

 

一般=1.7%
ひきこもり=0.7%

 

数字から「ひきこもり」と犯罪の関連性が非常に低いことがわかる。むしろ、なぜこれほどまでに低いか?ということが問われるべきであろう。

 (井出草平の研究ノート『ひきこもりの犯罪率』より)

 

 と、ひきこもり以外の人に比べると、かなり低いようだ。まあ、それはそうかも知れない。ひきこもりの人は引きこもっているわけで、犯罪のほとんどは他人と接触することで起こる。

 ひきこもりの人は他人との接触は少ないので、当然、犯罪率は低くなるのだろう。

 しかし家族は接触する。

 元エリート官僚が息子を殺してしまった原因に、息子からの家庭内暴力があり「殺さなければ、殺される」とまで思い詰めていたという。

 精神科医斎藤環さんによると

私の統計では、10%弱のケースに慢性的な暴力が伴い、50%程度に一過性の暴力が伴う。暴力と引きこもりは、親和性が高いと言わざるを得ない状況があります。
朝日新聞『家庭内暴力、止める方法あります ひきこもり問題専門家』より

 

 なぜひきこもりに家庭内暴力が起こるのかというと、私が観てきた中では、やはり本人が家族より責められ続け、そして自分自身でも自分を責め続けてしまい、家庭内にも自分の居場所がなくなり、追い詰められてということが多い。

 家族は、ひきこもり当事者がそこまで追い詰められていることに気が付かないのだ。

 それともう一つ、ひきこもり当事者は、ひきこもる以前に学校や社会、あるいは家族にかなり痛めつけられているからひきこもっており、すでに相当に傷ついているのだ。

 それをさらに家庭内でも攻撃される。

 そうなってはひきこもり者に立つ瀬はない。

 

精神疾患の人は危険な人なのか?

 ひきこもりと同じように、社会的に偏見にさらされているものに精神障害がある。

 今月、大阪の吹田市で警官が精神障害者手帳を持っている男に刺され、拳銃を奪われるという事件が起こった。
 どのような病気であったかは報道されていないが、精神障害や疾患を患っている人や家族は「また偏見が強まるのでは?」と思ったに違いない。

 

 答えからいうと、精神を病んだ人の犯罪は少ない。平成29年版の『犯罪白書』を引いてみよう。

f:id:fhn:20190624161603j:plain

平成29年版『犯罪白書』より

 検挙総数が22万6千376人に対して、精神障害者等はわずかに4千84人だ。

 

 ここで注意してほしいのは、この4千人の中に『精神障害に疑いのある者』が、1621人も含まれていることだ。

 

『疑いのある者』は、疑いであるから精神障害かどうかわからない人ということだ。

 

 つまり、精神障害者のみの犯罪は全体のわずかに1.1%にしか過ぎない。

 

 精神障害とその疑いのある者を含めたとしても1.8%に過ぎないのだ。

 

 放火と殺人は確かに多いのだが、健常者と比べると健常者の方が多い。

(ちなみに「精神障害者は人を殺しても無罪になる」と思っている人もいるようだが、平成16年の『犯罪白書』によると、心神喪失者と認められた人324人中、一審だとわずかに7人しかいない。)

 

 さらに加えよう、現在精神障害と診断される人は、全国で300万人以上、実に40人に一人いる。

 精神障害は、日本人は生涯だと5人に一人の割合で精神障害になる病気。
 つまり至極身近で当たり前の病気であることがわかる。

 

 これで精神障害者が危険なら、日本中危険人物だらけになる。

 

 いってみれば、刑法犯のうち4~10人に一人は水虫だから水虫患者はキケンというのに等しい(日本人は4~10人にの割合で水虫らしいので、おそらく刑法犯も4~10人くらいの割合で水虫患者がいるんでしょう)。

 

 あるいはほとんどの犯罪者は、犯罪の前の食事が、白いお米か小麦粉で作った食べ物を食べていたので、お米や小麦粉を食べる人は罪を犯しやすいというようなものだ。

 

 

 精神障害にせよ、ひきこもりにせよ、世間では偏見という先入観がある。

 

 精神障害者は5人一人がかかってしまう当たり前の病気だし、ひきこもりはおよそ100万人、精神科医斎藤環さんに言わせると200万人はいるらしいし、社会学者の井出草平さんの研究によると10人一人が経験するという。

 

 つまり精神障害者にせよ、ひきこもりにせよ、誰でもがなりえるもの。それをおかしな偏見で見ないようにすることが、大切なのだと思う。

 

 

 

 

f:id:fhn:20180802175755j:plain

(私、おぐらおさむが描いた漫画『まり先生の心のお薬研究室』ぜひお読みください)